トゥール・ポワティエ間の戦い

トゥール・ポワティエ間の戦い：ヨーロッパの命運を分けた一戦

732年、フランス西部のトゥールとポワティエの間で繰り広げられたトゥール・ポワティエ間の戦いは、フランク王国とウマイヤ朝という二つの勢力が激突した歴史的な戦いです。この戦いは、ヨーロッパの歴史において重要な転換点となり、後のヨーロッパの形成に大きな影響を与えました。

名称の由来

この戦いは、英語では「Battle of Tours（トゥールの戦い）」、アラビア語では「معركة بلاط الشهداء（マウラカト・バーラト・アル=シュハーダ、殉教者の道の戦い）」と呼ばれます。イスラム側の呼称は、14世紀の歴史家イブン・イダーリーの歴史書に由来し、戦いの地で多くのイスラム兵が殉教したことにちなんでいます。

戦いの背景

当時、ウマイヤ朝は広大な領土を支配し、イベリア半島（アンダルス）にも進出していました。アンダルスでは、キリスト教徒の領主たちが抵抗を続けていましたが、イスラム勢力の脅威は増すばかりでした。一方、フランク王国では、宮宰カール・マルテルが勢力を拡大し、イスラム勢力との対立を深めていました。

アキテーヌを巡る争い

アキテーヌ公ウードは、娘をアンダルスの副知事ムヌザに嫁がせ、一時的に和睦を保っていました。しかし、ムヌザが反乱を企てたとして、新たに総督に任命されたガーフィキーによって攻撃され、殺害されてしまいます。ウード公は、かつては対立していた宮宰カール・マルテルに救援を求め、フランク王国連合軍を組織することになります。

戦闘の勃発

ウード公の領土であるアキテーヌに侵攻したガーフィキー率いるイスラム軍は、ガロンヌ川の戦い（ボルドーの戦い）でウード公を破り、北部まで侵攻しました。これに対し、カール・マルテルはウード公を右翼に組み込み、フランク連合軍を組織して、トゥールとポワティエ間の平野でイスラム軍と対峙しました。

戦闘の経過

フランク連合軍は、地形を利用した防御陣形を敷き、イスラム軍の騎兵の機動力を封じました。戦闘は7日間にわたる小競り合いが続き、最終日にはフランク軍がイスラム軍の略奪品を襲撃し、イスラム軍の指揮系統を混乱させました。その混乱の中でガーフィキーが戦死したことが、イスラム軍の撤退を決定づけました。

両軍の規模

両軍の兵力については諸説ありますが、フランク連合軍が15,000から20,000人、イスラム軍が20,000から25,000人程度であったと考えられています。

戦いの影響

トゥール・ポワティエ間の戦いは、フランク王国にとって重要な勝利となり、イスラム勢力によるヨーロッパへの侵攻を食い止める上で重要な役割を果たしました。この勝利によってカール・マルテルは「マルテル（鎚）」の称号を得て、フランク王国内での地位を確固たるものにしました。

カロリング朝の誕生

カール・マルテルの息子である小ピピンは、教皇を味方につけてメロヴィング朝を廃し、自ら王位に就いてカロリング朝を開きました。さらに、小ピピンの息子であるカール大帝（シャルルマーニュ）がフランク王国の勢力を拡大し、ヨーロッパの基礎を築いたとされています。

ヨーロッパにおける評価

ヨーロッパでは、この戦いはキリスト教圏の防衛と中世の始まりとして高く評価されています。一方、イスラム圏では、この戦いは局地的な小競り合いとして、さほど重要視されていません。

備考

SF作家アーサー・C・クラークは、この戦いでイスラム軍が勝利していれば、ヨーロッパの歴史は大きく変わり、産業革命が1000年早まった可能性があったと述べています。

まとめ

トゥール・ポワティエ間の戦いは、ヨーロッパの歴史において重要なターニングポイントとなりました。この戦いの勝利によって、フランク王国は勢力を拡大し、後のヨーロッパの形成に大きな影響を与えました。また、この戦いは、キリスト教とイスラム教という異なる文化圏の衝突を象徴する出来事としても、後世に語り継がれています。

参考文献

森義信「（書評）佐藤彰一著「「五・六世紀ガリアにおける王権と軍隊」(愛知大学法経学会法経論集法律篇第一〇一号)「後期古代社会における聖人・司教・民衆」(早大西洋史論叢第五号)」」『法制史研究』第34号、法制史学会、1984年、436-439頁、doi:10.5955/jalha.1984.436、ISSN 1883-5562。
津田拓郎「トゥール・ポワティエ間の戦いの「神話化」と8世紀フランク王国における対外認識」（PDF）『西洋史学』第261巻、日本西洋史学会、2016年6月、1-20頁、CRID 1050857777819095040、2024年10月30日閲覧。
アミール・アリ『回教史 A Short History of the Saracens』（1942年、善隣社）

関連項目

754年のモサラベ年代記 - この年代記はトゥール・ポワティエ間の戦いの最も詳細な部分を含んでいる。
ポワティエの戦い
タラス河畔の戦い
ワールシュタットの戦い
日仏関係

もう一度検索