アゴスティーノ・カラッチ

アゴスティーノ・カラッチ（Agostino Carracci, 1557年8月16日 - 1602年3月22日）は、イタリア・ルネサンス後期からバロック期にかけて活躍した画家、版画家です。彼は、同じく画家である弟のアンニーバレ・カラッチ、従兄弟のルドヴィーコ・カラッチと共に、当時の主流であったマニエリスムからの脱却を目指し、新たな絵画様式「ボローニャ派」を創始しました。カラッチ兄弟は、理想化された自然美と写実的な描写を融合させ、後のバロック絵画に大きな影響を与えました。

生涯

アゴスティーノはボローニャで生まれ、当初は建築家としての教育を受けました。しかし、1574年頃から版画制作に興味を持ち、フェデリコ・バロッチ、ティントレット、アントニオ・カンピ、パオロ・ヴェロネーゼ、コレッジョといった16世紀の巨匠たちの作品を模写し、その技術を磨きました。この時期、彼はエッチングなどの新作も手掛け、独自の表現を追求し始めました。

1586年から1587年にかけてパルマ、1587年から1589年にはヴェネツィアを旅し、各地の美術に触れて見識を深めました。ボローニャに戻ると、弟のアンニーバレ、従兄弟のルドヴィーコと共に、パラッツォ・ファーヴァやパラッツォ・マニャーニの壁画制作に携わりました。これらのフレスコ画は、彼らの共同作業によるボローニャ派の代表作として知られています。

1592年には、現在ボローニャ美術館に所蔵されている『聖ヒエロニムスの聖体拝領』を制作しました。この作品は、アゴスティーノの最高傑作の一つとされ、その構図の巧みさ、人物描写のリアリズム、そして精神性の高さが評価されています。また、1586年からは、パルマ国立美術館に所蔵されている祭壇画『聖母子と聖人たち』の制作に取り組みました。これらの作品は、彼の画業の成熟を示すものであり、ボローニャ派の芸術的目標を体現しています。

1598年、アゴスティーノは弟と共にローマに渡り、ファルネーゼ宮殿の装飾を手掛けました。このプロジェクトは、彼らの才能を広く知らしめる機会となりました。1598年から1600年の間には、現在ナポリにある風俗画『トリプルポートレート』を制作しました。1600年には、パルマ公ラヌッチョ1世に召喚され、パラッツォ・デル・ジャルディーノの装飾を手掛けていましたが、完成を待たずして1602年に亡くなりました。

アゴスティーノの息子であるアントニオ・カラッチも画家となり、ボローニャ派の画家として活動しました。彼の存在は、ボローニャ派の芸術が世代を超えて受け継がれていったことを示しています。

作品

アゴスティーノ・カラッチの代表的な作品には以下のものがあります。

円形の凹面におけるファウヌスの頭部（1595年頃、ワシントンD.C.国立美術館所蔵）：精緻なデッサン力と写実的な表現が際立つ作品です。
悔悛のマグダラのマリア（個人蔵）：宗教的なテーマを扱いながらも、人間的な感情を豊かに表現しています。
受胎告知（パリ、ルーブル美術館所蔵）：伝統的なテーマを、新しい解釈で描いた作品です。
哀悼（サンクトペテルブルク、エルミタージュ美術館所蔵）：キリストの死を嘆く人々の感情が、劇的に描かれています。
* イ・モーディ：失われたオリジナル版画を、カラッチが再制作したものです。性的なテーマを扱いながらも、芸術的な価値が高い作品です。

アゴスティーノ・カラッチは、その生涯を通して、卓越した技術と革新的な表現を追求しました。彼が創設したボローニャ派は、後の美術界に多大な影響を与え、バロック絵画の発展に大きく貢献しました。

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