イ・モーディ

イ・モーディ：失われたルネサンス期の性愛芸術の書

『イ・モーディ』(I Modi) 、別名『16の愉しみ』は、イタリア・ルネサンス期に制作された、現在ではオリジナルが失われてしまった性愛芸術の書として知られています。その大胆な表現と歴史的背景から、美術史において重要な位置を占めています。

オリジナル版と制作の経緯

オリジナル版は、銅版画家マルカントニオ・ライモンディによって1524年に制作されました。彼の16枚の性交体位図は、建築家ジュリオ・ロマーノがフェデリーコ2世・ゴンザーガの宮殿パラッツォ・デル・テのために制作した性愛図画に基づいています。

しかし、この版画の発表はローマ教皇クレメンス7世の怒りを買い、ライモンディは投獄され、版画はすべて破壊されることとなりました。詩人ピエトロ・アレティーノは、この事件に関与し、後にライモンディ釈放に尽力しています。彼は、さらに銅版画を解説する露骨なソネット集『ソネッティ・ルッスリオーシ・ディ・ピエトロ・アレティーノ』を執筆しました。

1527年には、詩と絵画が合わさった形で『イ・モーディ』が再出版されました。教皇による弾圧にもかかわらず、性愛を扱ったテキストとイメージが一体となった作品として、歴史的な意義を持ちます。ライモンディは再出版時には投獄を免れましたが、弾圧は広範囲に渡り、オリジナル版はわずかな断片を残すのみとなりました。1920年代には、1550年頃にヴェニスで印刷された木版画が発見されましたが、これはオリジナルを模倣したものです。

にもかかわらず、1550年の木版画や、後にアゴスティーノ・カラッチによって制作された複製版の存在から、少なくとも完全な一組が16世紀後半まで存在していたと推測されています。大英博物館に残る断片との類似性から、カラッチ版がオリジナルを参考に制作された可能性が高いとされています。アレティーノのソネットは、現在でも残存しています。

後世の版と美術史における影響

『イ・モーディ』は、カミッロ・プロカッチーニ、あるいはアゴスティーノ・カラッチによって複製されました。宗教美術が重視されたトリエント公会議の時代においても、これらの作品は制作され、1798年にはパリで『L`Aretin d`Augustin Carrache』として出版され、広く知られるようになりました。アゴスティーノの弟、アンニーバレ・カラッチも、ローマのパラッツォ・ファルネーゼに『神々の愛』というフレスコ画を残しており、これも裸体描写を含みますが、『イ・モーディ』のような露骨な表現ではありません。

クラシカルな表現と現代性の融合

『イ・モーディ』の版画は、古典的な物語や神話、有名なカップルを題材としていますが、古典美術とは異なる点も多数あります。

古典的な要素:

古典神話や歴史的事件を題材とする。
古典彫刻から影響を受けた人体表現（筋肉質の男性、細身の女性、髪型など）。
古典的な舞台装置（ギリシャの聖域など）。

現代的な要素:

大きなペニスなど、古典美術では見られない人体描写。
架空の人物や異なる時代の歴史上の人物を組み合わせた題材。
古典神話には登場しないサテュロスなどの存在。
女性器の明確な描写。
現代的な家具（スツール、クッション、ベッドなど）の描写。

これらの特徴から、『イ・モーディ』は、古典的な学問を踏まえつつも、当時の現代的な感性を取り入れた作品であることがわかります。オリジナルは失われてしまいましたが、残された複製版や文献を通じて、ルネサンス期の性愛芸術の一端を垣間見ることができます。その大胆な表現は、後世の芸術にも多大な影響を与えました。

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