アスガル・ファルハーディー

アスガル・ファルハーディー：イランを代表する映画監督の軌跡

アスガル・ファルハーディーは、1972年イランのエスファハーン近郊に生まれました。テヘラン大学とタルビヤト・モダッレス大学で映画を学び、ドラマ芸術の学士号と舞台監督の修士号を取得しています。

彼のキャリアは、イラン青年映画協会エスファハーン支部での8mm、16mmフィルムによる短編映画制作から始まりました。その後、イラン・イスラーム共和国放送（IRIB）でドラマや映画の脚本家として活動を開始します。テレビシリーズの監督も経験し、着実にキャリアを積んでいきます。

映画脚本家としての初仕事は、エブラーヒーム・ハータミーキヤー監督作品への参加でした。その後、自ら監督・脚本を務めた『麗しの街』を制作し、高い評価を獲得します。続く『水曜日の火花』は2006年のシカゴ国際映画祭でヒューゴー金賞を受賞するなど、着実に注目を集めていきます。

2009年には『彼女が消えた浜辺』がベルリン国際映画祭で銀熊賞（監督賞）を受賞。この成功を機に、2011年、彼の代表作となる『別離』が制作されます。離婚問題に直面する夫婦の姿を描いたこの作品は、ベルリン国際映画祭で金熊賞と複数の銀熊賞を受賞する快挙を達成。さらに第84回アカデミー賞外国語映画賞を受賞し、イラン映画として初の快挙を成し遂げました。

『別離』の成功後も、ファルハーディーは旺盛な創作意欲を示し続けました。2013年の『ある過去の行方』では、主演女優がカンヌ国際映画祭で女優賞を受賞。2016年には『セールスマン』を発表し、カンヌ国際映画祭で脚本賞と男優賞を受賞するだけでなく、アカデミー外国語映画賞を2度目受賞しました。しかし、同年の授賞式は、ドナルド・トランプ大統領の入国禁止令への抗議からボイコットしています。

ファルハーディーの作品は、社会問題や人間関係の複雑さを繊細に描き出し、国際的に高い評価を得ています。彼の作品は、単なるエンターテイメントを超えて、社会への鋭い洞察と深い共感を提示し、観る者に多くの問いを投げかけてきます。

主な監督作品

砂塵にさまよう (2003)
美しい都市 (2004)
水曜日の火花 (2006)
彼女が消えた浜辺 (2009)
別離 (2011)
ある過去の行方 (2013)
セールスマン (2016)
誰もがそれを知っている (2018)
英雄の証明 (2021)

受賞歴 (抜粋)

アカデミー外国語映画賞 (2012年) 『別離』
アカデミー外国語映画賞 (2016年) 『セールスマン』
金熊賞 (2011年ベルリン国際映画祭) 『別離』
銀熊賞 (2009年ベルリン国際映画祭) 『彼女が消えた浜辺』
ヒューゴー金賞 (2006年シカゴ国際映画祭) 『水曜日の火花』

アスガル・ファルハーディーは、イランの文化や社会に対する深い理解と、普遍的な人間ドラマを描く才能を兼ね備えた、現代を代表する映画監督の一人と言えるでしょう。彼の今後の作品にも、世界中から大きな期待が寄せられています。

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