アステュアゲス

アステュアゲス（Astyuages）

アステュアゲスは、紀元前6世紀中頃に栄えた古代メディア王国の最後の王として知られています。メディア語でイシュトゥメグ（Ištumegu）と呼ばれ、古代ペルシア語文献ではア（レ）シュティワイガなどと記されます。父は先代のメディア王キュアクサレス2世とされます。伝統的には、紀元前585年頃から紀元前550年頃まで王位にあったとされていますが、その生涯やメディア王国の終焉に関する詳細は、史料によって異なる解釈がなされています。

ヘロドトスの伝えるアステュアゲス像

古代ギリシアの歴史家ヘロドトスによる『歴史』の記述は、アステュアゲスに関する最も有名な物語の一つです。ヘロドトスによれば、アステュアゲスは隣国リュディア王アリュアッテスの娘アリュエニスを妻に迎え、その間に生まれた娘マンダネが後にペルシアの指導者となるキュロス2世の母となったとされます。

アステュアゲスは、娘マンダネや、その胎内に宿った子供に関する不吉な夢を繰り返し見たと伝えられています。これらの夢は、彼の王位が脅かされることを示唆していると解釈され、深い不安を抱かせました。王は夢の脅威を回避するため、マンダネをメディア国内の貴族ではなく、あえて地位が低いと考えられていたペルシアの貴族カンビュセス1世に嫁がせるという異例の措置をとりました。

しかし、その後再び不吉な夢を見たアステュアゲスは、マンダネが妊娠していることを知ると、忠実な部下であるメディア人の貴族ハルパゴスに対し、生まれてくる孫（キュロス2世）を直ちに殺害するよう命じます。ところが、ハルパゴスは幼子を殺すに忍びず、代わりに牛飼いに子供を託しました。こうして生き延びたキュロスは、後に成長してペルシアを支配する人物となり、やがて祖父であるアステュアゲスに対して反旗を翻します。

アステュアゲスは反乱鎮圧のため、ハルパゴスを司令官とする討伐軍を派遣しますが、アステュアゲスの残忍な性格を嫌っていたハルパゴスは、軍を率いてペルシア側に寝返ってしまいます。最終的にアステュアゲス自らがキュロス討伐のため出陣しますが、パサルガダエ近郊での戦いで敗北し、捕虜となりました。ヘロドトスの記述によれば、このアステュアゲスの敗北をもって、メディア王国は滅亡に至ったとされています。

クテシアスによる最期に関する説

ヘロドトスと同時代の歴史家クテシアスは、アステュアゲスの捕虜となった後の運命について異なる説を伝えています。クテシアスによれば、彼はオイバレスという人物の入れ知恵を受けたキュロスの宦官ペティサカスによって、最終的に飢え死にさせられたとされます。

現代歴史研究におけるアステュアゲス

現代の歴史研究では、ヘロドトスによるアステュアゲスとキュロスの物語は、史実そのままというよりは、伝説や説話の要素を多く含むものと考えられています。例えば、マンダネの夫であるカンビュセス1世は、ヘロドトスが描くような「格下の」人物ではなく、実際にはメディア王国の有力な属国であったペルシアの王として、一定の地位を持っていたと見られています。また、アステュアゲスがキュロス2世の直接の祖父であったかどうかも疑問視されることがあります。

近年の研究では、アステュアゲスはヘロドトスが記す紀元前550年よりも少し遅い、キュロスがペルシア王として即位した紀元前551年以降まもなくして廃位されたとする説なども提示されており、彼の実際の在位期間やメディア滅亡の経緯についても、多様な見解が存在しています。

このように、アステュアゲスはメディア王国の終焉という歴史的な転換点に位置する重要な人物ですが、彼に関する記述は古代史料によって異なり、その実像については依然として研究が進められています。

（関連事項として、アステュアゲスにはアミュティスという妹がおり、新バビロニアのネブカドネザル2世の妻となったと伝えられています。）

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