アストルフォ

アストルフォ（Astolfo）

アストルフォは、中世フランスの武勲詩を源流とする物語群、特にイタリアで発展したルネサンス期の叙事詩に登場する著名な騎士です。フランク王シャルルマーニュに仕える高名な十二勇士（パラディン）の一人であり、イングランド王オットー（歴史上のマーシア王オッファと推定される人物）の息子という高貴な出自を持ちます。また、英雄ローランやルノー・ド・モルトーバン、女騎士ブラダマンテといった名だたる登場人物たちとはいとこの関係にあります。

彼の名は古くから武勲詩に見られますが、その人物像が広く世に知られるようになったのは、主に14世紀以降にイタリアで創作された叙事詩を通してです。ルイジ・ブルチの『モルガンテ』やマッテーオ・マリーア・ボイアルドの『恋するオルランド』で重要な役割を演じ、そしてルドヴィーコ・アリオストの代表作『狂えるオルランド』では、最も印象的なエピソードの数々に深く関わります。これらのイタリア叙事詩において、アストルフォは他の剛勇な騎士たちとは異なり、どこか人間味あふれるユーモラスな人物として描かれることが多いのが特徴です。

彼自身の騎士としての技量や力は、物語の初期においては他の著名なパラディンたちに比べて決して傑出したものではありませんでした。むしろ、時に脆弱とも見られがちでした。しかし、彼は偶然にもいくつかの強力な魔法のアイテムを手にしたことで、その運命と活躍の様相を一変させます。

アストルフォが獲得した魔法アイテムの中でも特筆すべきは、触れた相手を必ず落馬させるという驚異的な力を持つ「魔法の槍」です。これを得てから、彼は数々の馬上槍試合や戦闘で勝利を収め、卓越した騎士と目されるようになりました。さらに、あらゆる魔法や呪いを打ち破る知識が記された「魔法の本」、一吹きで敵を混乱させ、あるいは打ち倒す力を持つ「角笛」、そして空を自在に駆け巡ることができる伝説の生物「ヒッポグリフ」までもが彼の手に渡ります。

これらの強力なアイテムを駆使し、アストルフォは物語の中で輝かしい功績を挙げます。例えば、強大なタタール王アグリカーネを退けたり、邪悪な巨人カリゴランテを捕らえてカイロの街中を引き回すといった活躍は、『狂えるオルランド』の中でも印象的なエピソードとして描かれています（第15歌など）。

しかし、彼の手にあった魔法のアイテムが全て留まるわけではありませんでした。彼は「魔法の槍」の真の力を知らずに、いとこのブラダマンテに譲り渡し、また物語の後半、月からの帰還後には「角笛」は音の力を失い、愛用のヒッポグリフも手放しています。

アストルフォの活躍の中でも最も有名で象徴的なエピソードは、親友である英雄オルランドが、失恋のあまり正気を失ってしまった際に、その理性を回復させるため彼が月への旅を試みたことです。なぜ月へ行く必要があったのかというと、『狂えるオルランド』の世界観において、地上で失われたありとあらゆるもの、例えば王国や富、そして人間の理性などが月に集められているとされているからです（第34歌第75節）。アストルフォはヒッポグリフと預言者ヨハネの助けを借りて月へ到達し、そこでオルランドが失った正気を見つけ出すことに成功します。さらに、この旅の途中で、皮肉にも彼自身がかつてどこかで失っていたはずの自身の理性をも再発見するのでした。この月からの帰還により、アストルフォは一時的に非常に聡明で理知的な状態となりますが、その後の彼の行動による過ちから、再びその理性は失われたと伝えられています。

彼が「狂気」を象徴するとされる月（西洋ではLuna=月がLunacy=狂気の語源の一つとされる）へ赴き、友人の正気を取り戻すというこのエピソードは、物語全体に込められたアイロニーの一端を示しているとも解釈できます。

物語の結末、アストルフォはローランをはじめとする多くのフランクの勇士たちと共に、イスラム軍との激戦となったロンスヴォー峠の戦いにて、悲劇的な最期を迎えることとなります。

彼のユニークな人物像や活躍は、現代においても様々なフィクション作品に影響を与えています。例えば、小説では『Fate/Apocrypha|Fate_Apocrypha』、ゲームでは『Fate/Grand Order|Fate_Grand Order』など、多くのメディアミックス作品に登場し、人気を博しています。

（出典：各種叙事詩及び関連文献）

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