アストンマーティン・ヴィラージュ

アストンマーティン ヴィラージュ：栄光と短命の高級スポーツカー

アストンマーティン社が1989年から生産したヴィラージュは、同社の歴史において特異な位置を占める大型スポーツカーです。1967年から生産が続けられていたV8シリーズの後継として登場しましたが、その歴史は長くはありませんでした。アストンマーティン社の経営状況の悪化や、ライバル車との競争激化の中で、ヴィラージュは長期間にわたるマイナーチェンジのみで生き延びてきたV8シリーズの刷新モデルとして開発されました。1988年の英国国際モーターショーで公開され、翌年から生産が開始されました。

初代ヴィラージュ(1989年-2000年)：伝統と近代性の狭間で

1980年代にデザインされたヴィラージュは、空力性能を意識した近代的なエクステリアデザインが特徴でした。しかし、エンジンやサスペンション、シャシーといった基本構造は前身であるV8シリーズを踏襲しており、旧来の設計と製造方式が採用されました。そのため、車両重量は1790kgに達しましたが、強力なエンジンにより最高速度254km/hを達成しました。

デザイン面では、近代化されたエクステリアにもかかわらず、アストンマーティンらしさが希薄であると評されました。コスト削減のため、多くの外装部品を他社量産車から流用していたことがその一因です。例えば、ヘッドライトはアウディ200、テールライトはフォルクスワーゲン・シロッコからの流用であり、このため、ヴィラージュは独特の個性に欠けるデザインになってしまいました。内装部品にもフォード、ジャガー、ゼネラルモーターズの部品が多数使用されており、コスト優先の設計が見て取れます。

一方、1994年にフォード傘下に入って登場したDB7は、新設計でジャガーのメカニカルコンポーネンツを多用しながらも、伝統的なアストンマーティンデザインを継承したエレガントなモデルとして高い評価を受けました。この点からも、ヴィラージュのデザインがいかに保守的で、伝統的なアストンマーティン像との乖離があったかが分かります。

多様な派生モデルと高性能版ヴァンテージ

ヴィラージュは、オックスフォード州ブロクスハムの新工場で生産されたDB7とは異なり、従来のニューポートパグネル工場で旧来の方式により少数生産が続けられました。様々な限定車やスペシャルモデルも存在しました。

代表的な派生モデルとして、1992年に登場した2+2シーターオープンモデルのヴィラージュ・ヴォランテがあります。また、1992年からはシューティングブレークも限定生産され、顧客の特別注文に応じて4ドアモデルのラゴンダも生産されました。

1993年には、高性能版としてアストンマーティン・ヴァンテージが登場しました。より精悍なスタイリングと、スーパーチャージャーを搭載した550PSの5.3L V8エンジンにより、最高速度320km/h、0-60マイル加速4.2秒という驚異的な性能を達成しました。1998年には、エンジン出力が600PSに強化されたヴァンテージV600へと発展しました。

通常のヴィラージュも、1996年以降はV8クーペと改名され、生産が続けられました。1999年にはル・マン24時間レース優勝40周年記念モデルとしてV8ヴァンテージ・ルマンが限定生産されました。

二代目の短命：2011年の復活と終焉

11年ぶりに復活した2代目ヴィラージュは、2011年3月に登場しました。フラッグシップモデルDBSとベーシックモデルDB9の中間モデルという位置づけで、490HPの最高出力と299km/hの最高速度を達成しました。クーペとヴォランテが用意されましたが、この2代目のヴィラージュも、DB9のビッグマイナーチェンジに伴い、2013年には生産終了となりました。モデル名としてのヴィラージュは、わずか2年で再び歴史の幕を閉じました。

その後、2014年にはザガートがワンオフモデルとして「ヴィラージュ・シューティングブレーク・ザガート・センテニアル」を発表しましたが、これはオリジナルのヴィラージュとは大きく異なるデザインでした。

アストンマーティンヴィラージュは、時代の変化や経営状況、競争環境の中で、常に試練にさらされながらも存在感を示したモデルと言えるでしょう。その短くもドラマチックな歴史は、自動車史における一つのエピソードとして記憶に残ります。

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