フォルクスワーゲン・シロッコ

フォルクスワーゲン シロッコ：熱風を名に冠したクーペの歴史

フォルクスワーゲン・シロッコは、同社が製造販売していたハッチバッククーペタイプの乗用車です。その名前は、北アフリカから地中海地方に吹き込む熱風「シロッコ」に由来しており、パサートやジェッタなど、フォルクスワーゲンの他の車種にも見られる風をモチーフとしたネーミング戦略の一環です。興味深いことに、イタリアの自動車メーカー、マセラティが生産するギブリという車種も、シロッコのリビアでの呼び名に由来しています。

初代シロッコ (1974年 - 1981年)：ゴルフをベースとしたスポーティクーペ

初代シロッコは、フォルクスワーゲンのロングセラーモデルであったビートルの後継として登場したゴルフIをベースに開発されました。ゴルフIの発売から数ヶ月後、1974年3月にデビューを果たしました。ビートルのクーペモデルであったカルマンギアの後継として期待されたシロッコは、低車高とスポーティなハンドリングを特徴としていました。

デザインは、フォルクスワーゲンと長く協業関係にあるイタルデザインの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロの手によるものです。ロングノーズと傾斜したフロントガラス、そしてスポイラーのようにカットされたファストバックテールは、当時としては斬新なスタイルでした。

エンジンは、水冷直列4気筒SOHCで、排気量は1.1L、1.6Lが用意され、後に1.6L燃料噴射式エンジン搭載のGTIモデルも追加されました。アメリカ市場向けには排ガス規制に対応するため、排気量が1.7Lに拡大されました。ヘッドライトはグレードによって丸型4灯と角型2灯の2種類が存在しました。

生産期間中はマイナーチェンジを行い、フロントワイパーの本数変更、ウィンカーランプの大型化、バンパーデザインの変更などが行われました。初代シロッコは、オペル・マンタやフォード・カプリといったライバル車種を凌駕する販売台数を記録し、1981年までに50万台以上を生産しました。日本市場にも輸入され、1.5Lエンジン搭載モデルが販売されました。

2代目シロッコ (1982年 - 1992年)：進化したデザインと充実装備

1982年に発売された2代目シロッコは、デザインをフォルクスワーゲン社内で行い、初代モデルとは大きく異なるデザインとなりました。プラットフォームは初代を踏襲しつつ、当時流行していたリアスポイラーをテールゲートウインドウ上部に装着するなど、空力性能の向上にも注力しました。リアスポイラー装着時のCd値は0.38に向上し、後輪側の揚力を30%近く減少することに成功しました。

エンジンは、1.6L、1.8L、1.8Lインジェクションエンジンの3種類が用意され、日本市場にはGTiモデルが輸入されました。装備面では、本革シートやパワーウィンドウがオプションで選択可能となりましたが、初期モデルではパワーステアリングが装備されていませんでした。

マイナーチェンジを経て、エンジン、ブレーキ、ワイパー、パワーステアリングなどが改良され、快適性と安全性が向上しました。また、トップモデルであるGTXシリーズには、エアロパーツをフル装備したモデルも存在しました。16バルブDOHCエンジン搭載のGTX-16Vも追加され、高いパフォーマンスを実現しました。

生産はアメリカや日本など多くの市場では1988年に終了しましたが、ドイツ本国では1992年まで継続されました。

シロッコ・ツインエンジン：実験的な4WDモデル

エッティンガーによってチューニングされた16バルブDOHCエンジンを前後に搭載した4WD実験車両です。後部エンジンはミッドシップマウントされており、後部座席は存在しません。前後駆動配分を変更するレバーが装備され、前輪駆動、後輪駆動、そして連続的に駆動配分を変えることが可能でした。

3代目シロッコ (2008年 - 2017年)：現代的なデザインとパワフルなエンジン

2008年に発売された3代目シロッコは、2006年のパリモーターショーで発表されたコンセプトカー「アイロック」をベースに開発されました。特徴的なカムバックスタイルのデザインが採用され、幅広で短いボディ、ロングルーフ、ほぼ垂直に近いバックドアが印象的でした。

ゴルフVIと共通のエンジンが搭載され、1.4Lツインチャージャーエンジン、2.0Lエンジン、2.0L TDIエンジン、そして高性能モデルであるシロッコRには256PSの2.0L TSIエンジンが搭載されました。日本市場にも導入され、1.4L TSIと2.0 TSIモデルが発売されました。その後、シロッコRも発売され、さらに特別仕様車であるR-Lineも登場しました。

販売期間中にはマイナーチェンジ、仕様変更などが行われ、燃費向上、装備充実などが図られました。しかし、2014年には日本市場での販売が終了し、その後も他の市場においても2017年までに生産・販売が終了しました。

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