アセンション (アルバム)

ジョン・コルトレーン『アセンション』：フリー・ジャズの金字塔

『アセンション』（Ascension）は、ジャズ・サックス奏者ジョン・コルトレーンが1965年に発表した革新的なアルバムです。この作品は、コルトレーンがフリー・ジャズの領域へ本格的に足を踏み入れた重要なターニングポイントとして位置づけられています。

フリー・ジャズへの傾倒

1964年、コルトレーンはオーネット・コールマンらとの共演を通じて、フリー・ジャズの持つ無限の可能性に強い感銘を受けました。コールマンのアルバム『フリー・ジャズ』に触発されたコルトレーンは、集団即興演奏による作品の制作を構想します。

大編成による集団即興

コルトレーンは、レギュラー・カルテットに加え、2人のトランペット奏者、4人のサックス奏者、そして1人のベーシストという大編成で本作の制作に臨みました。その結果生まれたのは、集団即興による圧倒的な轟音と、各メンバーによる個性的なソロが交互に展開される、他に類を見ない音楽体験でした。

2つのエディション

『アセンション』には、2種類の異なる演奏が存在します。当初はエディションIが収録されていましたが、コルトレーンの意向によりエディションIIに差し替えられました。現在では、両方のテイクがCDに収録されており、聴き比べることができます。

各エディションにおけるソロ・オーダーは以下の通りです。

エディションII：ジョン・コルトレーン → デューイ・ジョンソン → ファラオ・サンダース → フレディ・ハバード → ジョン・チカイ → アーチー・シェップ → マリオン・ブラウン → マッコイ・タイナー → アート・デイヴィス & ジミー・ギャリソン
エディションI：ジョン・コルトレーン → デューイ・ジョンソン → ファラオ・サンダース → フレディ・ハバード → アーチー・シェップ → ジョン・チカイ → マリオン・ブラウン → マッコイ・タイナー → アート・デイヴィス & ジミー・ギャリソン → エルヴィン・ジョーンズ

ジョン・マクラフリンの証言

ギタリストのジョン・マクラフリンは、本作を聴いた際の体験について、「一種のトランス状態に入り、自分がアフリカまで空を飛んでゆく姿を見たことがあった」と語っています。この言葉は、『アセンション』が聴き手に与える強烈な精神的インパクトを物語っています。

収録曲

全曲、ジョン・コルトレーン作曲。

1. アセンション（エディションII） - "Ascension (Edition II)"（40分23秒）
2. アセンション（エディションI） - "Ascension (Edition I)"（38分31秒）

演奏メンバー

ジョン・コルトレーン - テナー・サックス
フレディ・ハバード - トランペット
デューイ・ジョンソン - トランペット
ジョン・チカイ - アルト・サックス
マリオン・ブラウン - アルト・サックス
ファラオ・サンダース - テナー・サックス
アーチー・シェップ - テナー・サックス
マッコイ・タイナー - ピアノ
ジミー・ギャリソン - ベース
アート・デイヴィス - ベース
エルヴィン・ジョーンズ - ドラム

参考文献

J・C・トーマス『コルトレーンの生涯』武市好古訳 学習研究社 2002年
中山康樹『ジャズの名盤入門』講談社〈講談社現代新書〉2005年9月
原田和典『新・コルトレーンを聴け！』 ゴマブックス〈ゴマ文庫〉2008年
* 間章「『アセンション』の光と影または危機的な音楽と可能態の音楽への地平」『〈なしくずしの死〉への覚書と断片』月曜社、2013年

『アセンション』は、フリー・ジャズの可能性を極限まで追求した、コルトレーンの創造性の頂点を示す作品と言えるでしょう。

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