アチザリット

アチザリット（Achzarit）

アチザリットは、イスラエルが誇る装甲兵員輸送車（APC）であり、イスラエル国防軍（IDF）では歩兵突撃輸送車と呼ばれています。アラブ諸国から鹵獲したソ連製T-54/55戦車を基に、1980年代に開発されました。その名称は「冷酷な淑女」を意味し、非常に独特の存在感を持っています。

開発の背景と経緯

アチザリットの開発は1970年の第四次中東戦争後に始まりました。この戦争を経て、IDFは歩兵が戦車部隊と共に機動できるような輸送手段が必要だと痛感しました。主に使用されていたアメリカ製のM113ゼルダは、軽装甲が原因で対戦車ミサイルやRPG-7、地雷に対して脆弱であることが大きな問題でした。そこで、さらなる防御力を求め、さまざまな改造案が検討されましたが、コストと効果の両面から最適な解決策は得られませんでした。

結果的に、過去に鹵獲したT-54/55を元にしたTiran車輌を改造することが決まり、1980年代初頭から開発が開始されました。この装甲兵員輸送車は、1988年から実際に運用され始めることになります。これまでのさまざまなモデルを経て、最終的にアチザリットが登場しました。

構造と設計

アチザリットの基本的な設計は、T-54/55の車体をベースに、強力な防御力を確保するためにスペースド・アーマーが取り入れられています。エンジンは自走榴弾砲M109に基づいた新型ディーゼルエンジンが搭載され、全体の出力も十分に強化されています。また、兵員が上部ハッチから出る際には斜めにせり出すため、敵に露呈する危険性がありますが、その設計は一定の機動性を保つための工夫でもあります。

また、車内には安全性を高めるための換気システムや自動消火システムも装備されています。2000年代に入ると、起動輪や履帯もメルカバのものに換装したタイプも登場しました。

武装とバリエーション

アチザリットは、通常3丁のMAG 7.62mm機関銃を装備し、さらに遠隔操作式の銃塔（ラファエルOWS）が搭載されることもあります。また、装備として60mm迫撃砲も標準装備されており、結果的にAPCでありながら重武装とされています。

さらに、戦闘指揮車両、野戦救急車、工兵車両など多様なバリエーションがあり、特定の任務に対応することが可能です。これにより、従来のM113ゼルダ系は役割を減少させ、アチザリット系列が主流となってきています。

配備状況と運用

アチザリットは、量産された後に主に北部軍司令部に供給され、ゴラニ旅団などに配備されました。特に、2000年までのレバノン南部での治安維持や偵察任務において、重要な役割を果たしました。2004年にはガザ地区にも配備され、さまざまな局面で活躍を続けています。

2008年以降はナメル装甲兵員輸送車の優先配備が進められ、アチザリットは少しずつ他の部隊へと移管されています。現在では特にアレクサンドロニ旅団での運用が目立ち、イスラエルの戦場でその存在感を維持しています。

アチザリットは、開発から今日まで様々な革新を取り入れ、現代戦においても重要な役割を果たし続ける装甲兵員輸送車として位置付けられています。

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