アッシュル・ウバリト1世

アッシュル・ウバリト1世：アッシリアを大国へと導いた王

アッシュル・ウバリト1世（在位:紀元前1365年 - 紀元前1330年、低年代説では紀元前1353年～紀元前1318年）は、中アッシリア王国時代のアッシリア王であり、その治世はアッシリア史における重要な転換期と位置づけられています。彼の登場以前、アッシリアは周辺大国の影響下で独立と服属を繰り返していましたが、アッシュル・ウバリト1世の治世下で、アッシリアはミタンニ王国の支配から完全に脱却し、強国としての道を歩み始めました。

ミタンニからの解放

アッシュル・ウバリト1世は、エリバ・アダド1世の息子として生まれました。彼の最大の功績は、長年にわたりアッシリアを支配していたミタンニ王国を打ち破ったことです。紀元前1340年頃、ヒッタイトのスッピルリウマ1世がミタンニに侵攻した機会を捉え、アッシュル・ウバリト1世はミタンニの首都ワシュカンニを占領することに成功しました。これにより、アッシリアは長年の属国状態から脱し、独立を確立しました。この独立こそが、後のアッシリアが古代オリエント世界を席巻する大国へと発展する原点となりました。

大国への仲間入り

ミタンニ打倒後、アッシュル・ウバリト1世は自信を深め、周辺諸国との外交関係を積極的に展開しました。エジプトの王アメンホテプ4世（アクエンアテン）に宛てた外交文書では、彼を「我が兄弟」と呼びました。当時、「兄弟」という称号は、バビロニア、エジプト、ヒッタイト、ミタンニといった大国の王同士のみが用いることを許されていました。アッシュル・ウバリト1世がこの称号を使用したことは、アッシリアが名実ともに大国として認められるようになったことを示す象徴的な出来事でした。

しかし、この外交姿勢はバビロニアの王ブルナ・ブリアシュ2世の不快感を買い、彼はエジプトに対し、アッシリアを臣下として扱うべきではないと忠告しました。アッシュル・ウバリト1世は、自らの父をエリバ・アダド1世ではなくアッシュル・ナディン・アヘ2世と記すなど、バビロニアを刺激する行動も見られました。

バビロニアへの介入

紀元前1333年、バビロニア（カッシート朝）の王ブルナブリアシュ2世が死去すると、アッシュル・ウバリト1世はバビロニアの王位継承問題に介入しました。彼は自身の曾孫にあたるクリガルズ2世をバビロニア王位に就けることに成功し、アッシリアによるバビロニアへの影響力を確立しました。この出来事は、後のアッシリアがバビロニアを支配する端緒となりました。

外交書簡から見える思惑

アッシュル・ウバリト1世とブルナ・ブリアシュ2世がアメンホテプ4世に送った外交書簡からは、当時の国際関係や各国の思惑が垣間見えます。アッシュル・ウバリト1世は、エジプトに対し、新たな宮殿建設に必要な黄金を要求し、過去の贈り物と比較して不満を表明しています。一方、ブルナ・ブリアシュ2世は、アッシリア人が自国に立ち入ったことを非難し、エジプトに彼らとの取引を禁じるよう求めています。これらの書簡は、大国間の駆け引きや資源を巡る争いを鮮やかに描き出しています。

後継者とその後

アッシュル・ウバリト1世の死後、エンリル・ニラリがアッシリア王位を継承しました。アッシュル・ウバリト1世が築き上げた基盤の上に、アッシリアはさらなる発展を遂げ、古代オリエント世界において覇権を争う強国へと成長していきました。

アッシュル・ウバリト1世は、アッシリアを独立に導き、大国としての地位を確立した英明な王として、歴史に名を残しています。彼の外交手腕と戦略的な決断は、後のアッシリア帝国の繁栄に大きく貢献しました。

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