アッティラ (ヴェルディ)

ヴェルディのオペラ『アッティラ』：フン族の王の物語

ジュゼッペ・ヴェルディが作曲したオペラ『アッティラ』は、プロローグと3幕から構成されるドラマ・リリコであり、ヴェルディの9作目のオペラにあたります。この作品は、中世初期にヨーロッパを席巻したフン族の王アッティラを主人公としています。

作曲の経緯：困難を乗り越えて

前作『アルツィーラ』の上演が不成功に終わった後、ヴェルディはヴェネツィアのフェニーチェ劇場からの依頼を受け、1845年末頃に『アッティラ』の作曲に着手しました。当初、ヴェルディはツァハリアス・ヴェルナーの戯曲『フン族の王アッティラ』を題材に選び、フランチェスコ・ピアーヴェに台本を依頼しました。しかし、ヴェネツィアの都市の成立という物語にふさわしい題材であると考えたヴェルディは、直前に台本作家をテミストークレ・ソレーラに変更しました。

しかし、作曲は困難を極め、様々な問題が発生しました。1845年に『ジョヴァンナ・ダルコ』と『アルツィーラ』を立て続けに発表したヴェルディは疲労困憊しており、リウマチにも苦しめられていました。さらに、ソレーラが第3幕の後半を未完成のまま、妻と共にスペインへ旅行し、そのままマドリードに移住するという事態が発生しました。ヴェルディは苛立ちを隠せず、当初依頼したピアーヴェに未完の台本の完成を依頼することになりました。この出来事をきっかけに、ヴェルディはソレーラと決別することになります。当初、1845年から1846年の謝肉祭シーズンに初演される予定でしたが、これらのトラブルにより大幅に遅延しました。また、台本の後半部分には未熟さが指摘されるようになりました。

オペラは苦難の末に完成し、同時にヴェルディのリウマチの症状は悪化の一途をたどりました。

初演とその後

1846年3月17日、フェニーチェ劇場で初演が行われました。初演当初は冷ややかな反応でしたが、2日目には熱狂的な成功を収めました。その後、ボローニャやフィレンツェなど、イタリア国内で次々と上演され、1850年代までヴェルディの人気オペラとして長く上演されました。

初演後、ヴェルディは医師から6ヶ月の休養を勧められ、同年の春から休養に入りました。

原作と台本

原作: ツァハリアス・ヴェルナーの戯曲『フン族の王アッティラ』（1808年発表）。史実に基づいています。
台本: テミストークレ・ソレーラとフランチェスコ・ピアーヴェ（未完部分の補筆）によるイタリア語。

あらすじ

物語の舞台は、紀元前5世紀中頃のイタリア、アクイレイア、アドリア海に面した海岸、そしてローマ近郊です。

前奏曲

わずか40小節の前奏曲（ラルゴ、ハ短調、4分の4拍子）は、アッティラの悲劇を簡潔に象徴しています。

プロローグ（アクイレイアの広場）

アッティラ率いるフン族の精鋭部隊は、イタリアに侵攻し、アドリア海を望むアクイレイアを壊滅させます。アッティラの元に、アクイレイア人の女戦士たちがウルディーノに連行されてきます。アッティラは、アクイレイア人を皆殺しにするように命じたにもかかわらず、それを実行しなかったウルディーノを責めます。ウルディーノは、女戦士たちは王への貢ぎ物であると答えます。女戦士の一人、オダベッラは「祖国への愛のため」と毅然として答えます。アッティラは彼女に感銘を受け、望むものを与えようと申し出ます。オダベッラは自分の剣を返してほしいと答えますが、アッティラは代わりに自分の剣を与えます。オダベッラは、いつか父の仇を討つことを決意します。

オダベッラたちが去った後、アッティラはローマの使者エツィオを呼びつけます。エツィオは人々を下がらせ、アッティラと二人だけで密約を持ちかけます。東西ローマが弱体化した際、アッティラが全ヨーロッパを支配する代わりに、イタリアを自分に譲ってくれるなら、アッティラと手を組んでも良いという申し出です。アッティラはそれを裏切り行為だと怒り、「そのような堕落した考えが起こる国は滅亡して当然だ」と言い放ちます。拒否されたエツィオは憤慨してその場を去ります。

第2場は、アドリア海の干潟に浮かぶ泥地の小さな島。嵐の中、粗末な小屋で修行僧たちが神に祈りを捧げて暮らしています。嵐が止み、空が明るくなると、フォレストと共にアクイレイアから逃れてきた人々の小舟が次々と到着します。フォレストは恋人オダベッラの身を案じ、苦悩を歌います（カヴァティーナ『彼女は野蛮人の手中に』）。フォレストと人々は、祖国に勝利が訪れることを信じて誓います。

第1幕

第1場は、アッティラの陣営に近い森の中。プロローグから数週間後のある夜、オダベッラは恋人フォレストと再会します。フォレストはオダベッラがアッティラの愛妾になったと思い込み、怒りをあらわにします。しかし、オダベッラはアッティラにわざと媚びを売っているのは、祖国と父の復讐の機会を狙っているためだと必死に弁明します。フォレストの怒りは収まり、二人は和解し、熱い抱擁を交わします。

第2場は、天幕の中。ある晩、アッティラは夢にうなされ、突然飛び起きます。夢の中で老人が「お前は神の土地ローマに踏み入ることは許されない」と告げられたことに、底知れぬ恐怖を抱きます。我に返ったアッティラは、気を取り直してローマを征服する決意を固めます。部下や神官たちを招集して出陣を命じますが、白衣の老人レオーネを先頭に、女や子供を含む民衆が平和を祈りながら行進してきます。レオーネが夢に出てきた老人と同じ言葉を口にするのを聞いたアッティラは、恐れおののき、戦意を喪失し、その場にひざまずきます。行列の中にいたフォレスト、レオーネ、そしてオダベッラは、この光景を目撃し、祖国の勝利を確信します。

第2幕

第1場は、エツィオの陣営。アッティラとの休戦協定を結んだローマ皇帝ヴァレンティニアンの撤収命令を読みながら、エツィオは不満と怒りを抑えきれません。そこに兵士に導かれてアッティラの奴隷たちが現れ、エツィオを招待したいというアッティラの伝言を伝えます。使者の中に紛れていたフォレストは、人目を忍んでエツィオにアッティラへの復讐計画を打ち明け、賛同を得ます。エツィオは復讐を決意します（一同退場後、エツィオは『わが運命の賽は投げられた』を勇壮に歌い上げます）。

第2場は、アッティラの陣営の祝宴の場。華やかな前奏の後、祝宴の場でエツィオがウルディーノに導かれて登場し、手厚い歓迎を受けます。ドルイド教の神官たちがアッティラに近づき、身の危険を警告しますが、アッティラは平然とした態度で気に留めません。その時、突然の嵐で辺りが真っ暗になり、一同が震え上がります。その隙にフォレストはオダベッラの手を取ります。一方、エツィオはアッティラに同盟を提案しますが、再び拒否されます。

ようやく嵐が去り、一面が明るくなると、アッティラは気を取り直して乾杯しようとします。その瞬間、オダベッラがその杯には毒が入っていると叫びます。激怒したアッティラの前にフォレストが現れ、「自らがやったことだ」と告げます。フォレストの毅然とした態度に、アッティラは剣を振り下ろすことができません。オダベッラは、自分が代わりに裏切り者のフォレストを処罰しようとアッティラに進言します。アッティラはオダベッラの勇気に喜び、彼女を王妃に迎えようと宣言します。フィナーレでは、3人がそれぞれの復讐を決意しながら幕を閉じます。

第3幕

第1幕第1場と同じ場所、アッティラの陣営に近い森の中。アッティラとオダベッラの婚礼の日の朝。オダベッラが再び裏切ったことに怒り狂うフォレストは、ウルディーノと待ち合わせ、アッティラの天幕を襲撃しようと待機しています。やがて、式の最中に婚礼の喜びの合唱が聞こえてくると、フォレストの怒りは頂点に達します。そこにオダベッラが天幕から飛び出してきて、フォレストに必死に弁明しますが、フォレストは全く信じようとしません。その背後には、苛立つエツィオがいます。そこへ、彼女を追ってきたアッティラが3人一緒にいるのを目撃し、裏切り者を罵り、激昂します。その背後（舞台裏）からローマ軍の鬨の声が聞こえ、復讐の時が来たと悟ったオダベッラは、フォレストよりも先に短剣でアッティラを刺し殺し、父の仇を討ちます。不意を突かれたアッティラは、その場で息絶えます。勝利の凱歌が響き渡る中、幕が下ります。

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