アップル対アップル訴訟

アップル対アップル訴訟：音楽とテクノロジーの壮大な法廷闘争

アップルコンピュータ社（現Apple Inc.）とビートルズが設立したアップル・コア社のあいだで、1978年から2007年にかけて発生した商標権をめぐる長く複雑な訴訟を振り返ってみましょう。この訴訟は、音楽業界とテクノロジー業界の巨匠同士の衝突というだけでなく、商標権の解釈やデジタル音楽配信の未来にも大きな影響を与えました。

始まり：1978年から1981年の最初の対決

1978年、アップル・コア社は、アップルコンピュータ社が自社の商標「Apple」を不正に使用していると主張し、訴訟を起こしました。この訴訟は1981年に和解で決着しましたが、和解金は当初様々な憶測が飛び交ったものの、最終的には8万ドルと判明しました。和解の一環として、アップルコンピュータ社は音楽事業への進出を、アップル・コア社はコンピュータ事業への進出をそれぞれ控えることに合意しました。

1980年代後半の再燃：Apple IIgsとMIDI機能

1980年代後半、アップルコンピュータ社がApple IIGSシリーズにMIDI機能と自動録音機能を搭載したことが、再び紛争の火種となりました。アップル・コア社は、1981年の合意に違反していると主張し、改めて訴訟を起こしました。この訴訟によって、アップルコンピュータ社はApple IIシリーズの開発やマルチメディア分野への進出計画を大幅に見直すことになり、音楽関連ハードウェアの開発にも制限がかかりました。

1991年の新たな合意：チャイム騒動と商標権の明確化

1991年、両社は新たな和解に達しました。和解金は約2650万ドルにのぼりました。この合意では、「Apple」という商標の使用に関する権利が明確に区分されました。アップル・コア社は音楽作品に関する「Apple」商標の使用権を、アップルコンピュータ社はコンピュータ関連製品・サービスに関する使用権を保有することになりました。しかし、アップルコンピュータ社は物理メディアによる音楽の販売・頒布は制限されました。この頃、アップルコンピュータ社のある従業員がMacintosh OSに「Chimes」というサウンドを搭載しようとした際、英アップルとの合意に抵触するとして社内から却下されたというエピソードも有名です。

2000年代初頭の再燃とiTunes Music Store

2003年、アップル・コア社は、アップルコンピュータ社のiTunes Music Storeにおける「Apple」ロゴの使用が新たな合意に違反していると主張し、再び訴訟を起こしました。2006年、イギリス高等法院はアップルコンピュータ社の主張を認め、アップル・コア社の訴えを棄却しました。しかし、アップル・コア社は控訴を検討する姿勢を示しました。

最終的な合意とiTunesへのビートルズ楽曲配信

2007年2月、両社は最終的な合意に達しました。アップルコンピュータ社が「Apple」商標の全権利を保有し、アップル・コア社には継続使用のためのライセンスを供与するという内容でした。様々な報道によると、和解金は5億ドルに上ったと推測されています。この合意によって、長年にわたる商標紛争は終止符を打ちました。これを受け、2010年11月、ついにiTunes Storeでビートルズの楽曲の配信が開始されました。これは、長きにわたる法廷闘争の結末であり、音楽とテクノロジーの融合、そしてデジタル音楽配信の新たな時代を切り開く出来事でした。この訴訟は、商標権の複雑さや、企業間の長期的な関係、そしてデジタル音楽市場の進化という様々な側面を浮き彫りにする事例となりました。

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