アップル・コア

アップル・コア（Apple Corps Ltd.）は、1968年、世界的な人気を誇るロックバンド、ビートルズによって設立された企業です。設立時の資本金は200万ドルに上り、その基幹事業として、アップル・レコードが重要な役割を担いました。

ビートルズの成功の裏には、莫大な所得税の問題がありました。その対策として、ビートルズのマネージャーであったブライアン・エプスタインは、会計士の助言を受け、1967年にBeatles & Co.社を設立。多角的な経営体制の構築を目指していました。しかし、エプスタインの急逝という事態が発生。その後、ビートルズはNEMSエンタープライズとの契約を更新せず、新たな会社設立へと舵を切ります。

1968年1月、ビートルズは既存の複数の会社を統合し、アップル・コア社を設立しました。これは、アーティスト主体の企業を目指した彼らの理想を反映したものでした。当初は、家電、映画制作・配給、音楽出版、レコードレーベル運営、小売業（アップル・ブティック）という5つの事業を展開する計画でした。

設立当初は、ジョン・レノンが「ビジネスのシステムの中で芸術的な自由を確保すること」、ポール・マッカートニーが「アップルはある種の共同体であり、他の人たちに夢を提供する手段だ」と語ったように、崇高な理念が掲げられていました。ニール・アスピノールが代表取締役社長に就任しましたが、経営経験の不足や、関係者による資金流出、事業の頓挫などが相次ぎ、設立当初から経営状態は悪化の一途を辿りました。

その後、アラン・クレインが財務マネージャーとして就任。クレインは不採算事業の廃止や人員削減を実行し、経営の立て直しに尽力しました。ビートルズの解散（1970年）後もアップル・コアは存続し、アスピノールが社長に復帰。主にビートルズの権利管理を担う企業へと変貌を遂げました。

アップル・コアは、ビートルズの音楽作品や関連グッズの権利を管理し、その収益をメンバーや関係者に分配する重要な役割を担っています。また、“Beatles”という商標も保有しています。2007年には、アスピノールが退職し、ジェフ・ジョーンズが社長に就任。さらに、2012年にはユニバーサルミュージックと共同でカルダーストーン・プロダクションズを設立し、ビートルズの原盤権管理にも関与しています。

「Apple Corps」という社名は、ポール・マッカートニーが所有していたルネ・マグリットの絵画に由来すると言われています。この名称を巡っては、アップルコンピュータ（現Apple Inc.）との間で長年にわたる商標権訴訟が繰り広げられました。最終的には、Apple Inc.が「Apple」に関連する商標権を保有し、Apple Corpsがライセンスを得て使用する形で和解が成立しました。しかし、その詳細な条件は公表されていません。

アップル・コアの歴史は、ビートルズという世界的バンドの成功と、その後の経営、そして企業間の権利争いといった、様々な要素が絡み合った複雑な物語です。音楽史のみならず、ビジネス史においても重要な位置を占める企業として、その動向は今後も注目を集めることでしょう。

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