アトバコン

アトバコンについて

アトバコン（Atovaquone）は、ナフトキノン誘導体に分類される化合物で、主にニューモシスチス肺炎（PCP）の治療と予防に用いられます。商品名としては「サムチレール」が知られています。また、プログアニルとの合剤は、マラリアの治療薬としても利用されています。

作用機序

アトバコンは、ユビキノンの類似物質であり、ミトコンドリア内膜において、チトクロームbとユビキノンとの結合を阻害します。これにより、真菌の呼吸を抑制し、抗真菌効果を発揮します。特に、ニューモシスチス・イロベチー（Pneumocystis jirovecii）に対して選択的に作用します。

効能・効果

日本国内では、アトバコンはニューモシスチス肺炎の治療および発症抑制に対して承認されています。ただし、他の真菌、細菌、マイコバクテリア、ウイルス感染症には効果がありません。

スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合剤（ST合剤）の使用が困難な場合に、代替薬として検討されます。プログアニルとの合剤は、マラリアの予防と治療薬として承認されていますが、マラリア原虫の休眠体であるヒプノゾイトには効果がない点に注意が必要です。

海外では、以下の感染症に対して承認されています。

軽症から中等症のPCP治療（重症例には適用外）
トキソプラズマ症の治療
マラリア（アトバコン・プログアニル合剤として）
バベシア症（通常はアジスロマイシンとの併用）

ST合剤がPCP治療の第一選択薬ですが、アトバコンは骨髄抑制を起こさないため、造血幹細胞移植後の患者など、骨髄機能が重要な患者にも使用できます。

副作用

治験で報告された主な副作用には、悪心、発疹、嘔吐、下痢、頭痛、発熱などがあります。重大な副作用として、皮膚粘膜眼症候群（スティーブンス・ジョンソン症候群）、多形紅斑、重度の肝機能障害、無顆粒球症、白血球減少などが添付文書に記載されています。プログアニルとの合剤では、さらに肝炎、胆汁鬱滞、アナフィラキシー、汎血球減少症などが報告されています。

作用機序の詳細

ミトコンドリア内膜の呼吸鎖複合体IIIを構成するチトクロームbとユビキノンの結合を阻害することで、ニューモシスチス・イロベチーの呼吸を抑制します。アトバコンは、ヒト肝臓ミトコンドリアに対する選択性が高く、これはチトクロームbのアミノ酸配列の違いに起因すると考えられています。実験的には、特定の変異によって耐性が出現することも確認されています。

使用上の注意

アトバコンは、特定の感染症に対して有効な薬剤ですが、副作用や相互作用にも注意が必要です。他の薬剤との併用や、持病をお持ちの場合は、必ず医師や薬剤師に相談してください。特に、重篤な副作用が発生する可能性もあるため、服用中は体調の変化に注意し、異常を感じた場合は速やかに医師の診察を受けてください。

出典

ウィキメディア・コモンズには、アトバコンに関するカテゴリがあります。
Molecular Basis for Atovaquone Resistance in Pneumocystis jirovecii
Atovaquone (Meprone)
British National Formulary

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