アトミック・ソルジャー

アトミックソルジャー (Atomic Soldier)

「アトミックソルジャー」とは、主に1945年から1960年代にかけて行われた各国の核実験において、様々な任務に動員され、その過程で放射線に被曝した兵士たちを指す言葉です。彼らは核爆発の直後に危険な区域での演習を行ったり、残留放射能の残る場所で除染作業に従事したりするなど、極めて過酷な環境下に置かれました。

アメリカ合衆国におけるアトミックソルジャー

アメリカ合衆国では、ネバダ核実験場や太平洋のエニウェトク島などで大規模な核実験が繰り返されました。これらの実験には多数の兵士が参加し、さまざまな任務にあたりました。ネバダ核実験場で行われた「デザートロック演習」をはじめとする一連の作戦では、兵士たちが核爆発の至近距離で待機し、爆発後のキノコ雲に突入するような訓練も実施されました。

兵士たちには、被曝線量を測定するためのフィルムバッジが支給されましたが、これは主にアルファ線といった特定の種類の放射線しか正確に測定できない不完全なものでした。また、彼らは事前に教育を受けましたが、その内容は放射線の健康への影響を軽視し、「取るに足らない」ものであると教え込むようなものでした。

太平洋のエニウェトク島で行われた水爆実験では、年に数回、夜明け前に大規模な動員が行われました。兵士たちは爆心地から一定の距離に整列させられ、強力な閃光から目を守るために爆発に背を向け、目を覆って立ち会わされました。これは、未曽有のエネルギーを持つ水爆の威力を兵士たちに体感させる目的もあったとされますが、その被曝のリスクは計り知れないものでした。

世界各国に存在したアトミックソルジャー

アトミックソルジャーの存在は、アメリカ合衆国に限られたものではありませんでした。旧ソビエト連邦、中華人民共和国、イギリス、フランスといった他の核兵器開発国でも、同様に兵士たちが核実験の現場で被曝しました。これらの国々でも、残留放射能が残る区域での軍事演習や、実験設備の撤去、除染作業などに兵士が投入され、被曝の犠牲となりました。中には、被曝による健康への影響に関する医学的データを収集する目的で、意図的に兵士を危険な状況に置いたケースもあったと指摘されています。

特に旧ソビエト連邦では、1954年9月14日に南ウラルのトツコエで、およそ4万5千人もの兵力を動員した大規模な核演習が行われました。この「トツキー軍事演習」では、核爆発の直後に敵味方に分かれた兵士たちが模擬戦闘を行い、実際の核戦争下で戦闘が可能かどうかが試されました。この実験に参加した多くの兵士が、後に放射線障害の症状を訴えたとされています。しかし、参加した兵士たちはこの演習に関する秘密を厳守することを誓わされ、関連する記録の多くが廃棄されたため、その実態や健康被害の全容は現在も明らかになっていません。

アトミックソルジャーが残した教訓

アトミックソルジャーたちの経験は、国家的な目標のために個人が犠牲にされたという悲劇的な側面を浮き彫りにしています。彼らの多くは、被曝による健康被害や、その後の社会的な困難に直面しました。近年では、こうした核実験の参加者のうち、退役後に健康上の障害などを抱える人々を「アトミック・ベテラン」と呼び、支援の対象とする動きも見られます。アトミックソルジャーたちの歴史は、核兵器の非人道性だけでなく、科学技術の進歩が人間の尊厳や安全よりも優先された時代の証言として、私たちに重要な教訓を与えています。

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