アパイアー
アパイアー（古希: Ἀφαία, Aphaiā, ラテン語: Aphaea）は、古代ギリシアにおいて、主にアイギナ島で崇拝されていた女神です。彼女の祭祀はアテナイにも広がり、アルテミス・アパイアーの神殿も存在しましたが、アパイアーは本来、アイギナ島の地方神でした。多くの地方神と同様に、アパイアーもまた、アルテミスやクレタ島の女神ブリトマルティスと同一視されるようになりました。
特に、クレタ島の女神であるブリトマルティス（古希: Βριτομαρτις, Britomartis）は、クレタ語で「甘美な乙女」を意味し、ミーノース王に追われた後、アイギナ島に逃れ、アルテミスの庇護のもと、アパイアーとして崇拝されるようになったと古代の詩人や歴史家は記しています。実際に、アイギナ島にはアパイアーの神殿跡が確認されており、その往時の姿が復元されています。
リーベラーリスの記述
アントーニーヌス・リーベラーリスの『変身譚』には、ブリトマルティスがクレタ島から逃れた後、アイギナ島で船から飛び降り、小さな森に逃げ込んだと記されています。その森には、後にアパイアーの神殿が建てられました。ブリトマルティスはその後、姿を消したため、「姿を消した者」すなわちアパイアーと呼ばれるようになったとされています。
パウサニアースの記録
パウサニアースの『ギリシア誌』には、アイギナ島のゼウス山へ向かう途中にアパイアーの聖域があると記されています。ピンダロスはこの女神を称える詩を詠みました。クレタでは、ブリトマルティスはアポロンが退治したピュートーンの穢れを払ったカルマノールの孫娘カルメーがゼウスとの間に設けた娘とされ、徒競走や狩りを好み、アルテミスと親しかったとされています。ミーノース王の求愛を避けるため、彼女は漁網に飛び込みました。その後、アルテミスによって女神となり、アイギナ島やクレタ島に姿を現しました。アイギナ島ではアパイアー、クレタ島ではディクテュンナ（「網の女神」の意）として知られています。
ブリトマルティスはアルテミスに守られた乙女であり、アパイアーもまた、アルテミスに関係する森の女神です。アイギナのアパイアーはクレタのブリトマルティスと同一視され、さらにアルテミスとも同一視されました。
アパイアーの名前は、ギリシア語の形容詞「パイオス（薄暗い、幽かな光の、陰鬱な）」に否定の接頭辞「-α」が付いたものと考えられます。このため、「薄暗さ」が否定されることで「かすかな明るさ」を意味します。また、「φαινομαι～φαινω（光をもたらす・出現する）」の否定動詞の分詞から派生した「アパネース(αφανης)」の変形として、「姿を消した者・乙女」という意味も持ちます。アパイアーはラプリアー(Λαφρια)としても知られていました。
アパイアーは、クレタでは「甘美な乙女」でしたが、アイギナでは「姿を消す女神」であり、アルテミスと同一視されたように、森の処女神で、男を殺戮する恐ろしい側面も持っていました。
アイギナ島には、アパイアーの聖域と神殿の遺跡が残っており、女神像も発見されています。神殿は紀元前6世紀から紀元前5世紀のもので、13.75m×29mの壮大な建造物でした。
この神殿跡で発見された東西の彫刻切妻壁には、アテナを中心にトロイア戦争の勇士たちが浮き彫りにされていました。これらの切妻壁は1811年にドイツのミュンヘンに運ばれ、バイエルン王ルートヴィヒ1世が購入し、修復して彫刻像にしました。現在、彫刻像群はミュンヘンのグリュプトテーク美術館に展示されています。神殿は現在もその構造を保ち、アイギナ島に残っています。
出典
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店
Liddell & Scott『An Intermediate Greek-English Lexicon』Oxford
Liddell & Scott『Greek-English Lexicon』Oxford
外部リンク
Goddess Britomartis 女神ブリトマルティス
コンピュータグラフィックス再現：アパイアー女神神殿・拡大像
アパイアー神殿 神殿遺跡
特に、クレタ島の女神であるブリトマルティス（古希: Βριτομαρτις, Britomartis）は、クレタ語で「甘美な乙女」を意味し、ミーノース王に追われた後、アイギナ島に逃れ、アルテミスの庇護のもと、アパイアーとして崇拝されるようになったと古代の詩人や歴史家は記しています。実際に、アイギナ島にはアパイアーの神殿跡が確認されており、その往時の姿が復元されています。
古代ギリシア・ローマの記録
リーベラーリスの記述
アントーニーヌス・リーベラーリスの『変身譚』には、ブリトマルティスがクレタ島から逃れた後、アイギナ島で船から飛び降り、小さな森に逃げ込んだと記されています。その森には、後にアパイアーの神殿が建てられました。ブリトマルティスはその後、姿を消したため、「姿を消した者」すなわちアパイアーと呼ばれるようになったとされています。
パウサニアースの記録
パウサニアースの『ギリシア誌』には、アイギナ島のゼウス山へ向かう途中にアパイアーの聖域があると記されています。ピンダロスはこの女神を称える詩を詠みました。クレタでは、ブリトマルティスはアポロンが退治したピュートーンの穢れを払ったカルマノールの孫娘カルメーがゼウスとの間に設けた娘とされ、徒競走や狩りを好み、アルテミスと親しかったとされています。ミーノース王の求愛を避けるため、彼女は漁網に飛び込みました。その後、アルテミスによって女神となり、アイギナ島やクレタ島に姿を現しました。アイギナ島ではアパイアー、クレタ島ではディクテュンナ（「網の女神」の意）として知られています。
女神ブリトマルティスとアパイアー女神
ブリトマルティスはアルテミスに守られた乙女であり、アパイアーもまた、アルテミスに関係する森の女神です。アイギナのアパイアーはクレタのブリトマルティスと同一視され、さらにアルテミスとも同一視されました。
アパイアーの名前は、ギリシア語の形容詞「パイオス（薄暗い、幽かな光の、陰鬱な）」に否定の接頭辞「-α」が付いたものと考えられます。このため、「薄暗さ」が否定されることで「かすかな明るさ」を意味します。また、「φαινομαι～φαινω（光をもたらす・出現する）」の否定動詞の分詞から派生した「アパネース(αφανης)」の変形として、「姿を消した者・乙女」という意味も持ちます。アパイアーはラプリアー(Λαφρια)としても知られていました。
アパイアーは、クレタでは「甘美な乙女」でしたが、アイギナでは「姿を消す女神」であり、アルテミスと同一視されたように、森の処女神で、男を殺戮する恐ろしい側面も持っていました。
アパイアー女神神殿
アイギナ島には、アパイアーの聖域と神殿の遺跡が残っており、女神像も発見されています。神殿は紀元前6世紀から紀元前5世紀のもので、13.75m×29mの壮大な建造物でした。
この神殿跡で発見された東西の彫刻切妻壁には、アテナを中心にトロイア戦争の勇士たちが浮き彫りにされていました。これらの切妻壁は1811年にドイツのミュンヘンに運ばれ、バイエルン王ルートヴィヒ1世が購入し、修復して彫刻像にしました。現在、彫刻像群はミュンヘンのグリュプトテーク美術館に展示されています。神殿は現在もその構造を保ち、アイギナ島に残っています。
出典
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店
Liddell & Scott『An Intermediate Greek-English Lexicon』Oxford
Liddell & Scott『Greek-English Lexicon』Oxford
外部リンク
Goddess Britomartis 女神ブリトマルティス
コンピュータグラフィックス再現：アパイアー女神神殿・拡大像
アパイアー神殿 神殿遺跡
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