ピンダロス

ピンダロス：古代ギリシアを代表する祝勝歌の詩人

ピンダロス（紀元前522年/518年 - 紀元前442年/438年）は、古代ギリシアを代表する抒情詩人です。テーバイ近郊に生まれ、名家であるアイゲイダイ氏に属していました。若くして詩作と音楽の才能を開花させ、20歳の頃にはテッサリアの豪族から依頼を受けて勝利歌を作曲するなど、早くから才能を発揮しました。

同時代の詩人シモニデスやバキュリデスと競い合いながら、アイギナ島の貴族やシチリアの支配者テロン、さらにはヒエロン王の宮廷など、各地の有力者のもとを訪れ、多くの作品を創作しました。中でも「ピュティア勝利歌」第4歌と第5歌は、キュレネ王のために作られた彼の最高傑作の一つとして知られています。

ピンダロスは、オリンピックやデルポイなど各地の競技祭典にも出席し、その華やかな祭典の雰囲気を自身の作品に反映させました。晩年はアルゴスで過ごし、愛する少年テオクセノスの看病のもと、80歳で生涯を終えたと伝えられています。

ピンダロスの詩作と世界観

ピンダロスは孤高の詩人として知られており、時代の流れに左右されることなく、独自の詩風を貫きました。彼はペルシア戦争においても愛国歌を作らず中立の立場を保ち、アテナイの台頭や学問の発展にも関心を示さず、独自の信仰と世界観を堅持しました。その世界観は、ピュタゴラスの神秘主義に近しいものだったと考えられています。

彼の作品は、古くは17巻あったと伝えられていますが、現在残っているのは競技勝利歌の4巻のみです。残りは断片としてしか残っておらず、その全容を知ることはできません。

彼の詩は、神話や伝説を題材としつつ、ピンダロス自身の思想や世界観を深く反映しています。複雑な韻律とドリス方言を用いた荘重な表現は、アイスキュロスやヘラクレイトスの言語にも通じるものがあります。その難解な詩風ゆえに、後継者や弟子を持たなかったともいわれています。読者は、詩の断片的な流れを注意深く辿りながら、その奥深い世界観に触れる必要があります。

ピンダロスの作品と影響

ピンダロスの作品は、古代ギリシアの文化や社会を知る上で貴重な資料となっています。彼の祝勝歌は、単なる競技の記録にとどまらず、当時の社会状況や人々の信仰、そして詩人の内面世界を反映した、高度な芸術作品です。

彼の作品は、後世の詩人や作家にも大きな影響を与え、現代においても高く評価されています。2004年のアテネオリンピックでは、表彰メダルのデザインにピンダロスの祝勝歌の一部が採用されるなど、その名声は現代まで続いています。

関連文献

ピンダロスの作品やその研究に関する文献は数多く存在します。日本語で読めるものとしては、以下のものがあります。

呉茂一編訳『増補　ギリシア抒情詩選』「ピューティア祝勝歌」（抄）（岩波文庫、1952年）
久保正彰訳「オリュムピア祝捷歌集（全）」、呉茂一・高津春繁訳者代表『世界名詩集大成1　古代・中世』（平凡社、1960年）
内田次信訳『ピンダロス／祝勝歌集・断片選』（京都大学学術出版会・西洋古典叢書、2001年）
安西真『ピンダロス研究　詩人と祝勝歌の話者』（北海道大学図書刊行会［北海道大学大学院文学研究科研究叢書１］、2002年）
* 小池登『ピンダロス祝勝歌研究』（知泉書館、2010年）

これらの文献を通して、ピンダロスとその作品について、より深く知ることができるでしょう。

外部リンク

Pindarの作品（インターフェイスは英語）- プロジェクト・グーテンベルク

関連項目

ギリシア文学

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