ブリトマルティス

ブリトマルティス: 古代の女神

ブリトマルティス（古希: Βριτόμαρτις）は、古代のミーノーア文明における山と狩猟の女神で、後にギリシャ神話に取り入れられました。彼女は次第に実態が不明確になり、伝承の中で様々な側面を持って変化しました。クレーテー島方言では「甘美な少女」や「甘美な処女」という意味を持ち、彼女の信仰はミュケーナイ文明まで広がっていきました。

ブリトマルティスは、山のニュンペー（山精）として、狩猟や自然との結びつきを象徴しています。彼女の主要な側面の一つは、クレーテー島のポトニア (Potnia)としての存在で、これは「女主人」を意味します。最古の描写では、彼女はゴルゴーンのような悪魔的な特徴を持ち、両刃の斧（ラブリュス）を握る姿が想像されます。このような姿は、力強さを象徴しながらも、同時に神聖なヘビを扱うことで暴力的な一面をも示しています。特にその恐ろしい側面を「ブリトマルティス」という名で呼び、より柔和な印象を与えようとする婉曲法も見られました。

ブリトマルティスに関する神話は、彼女の力の及ぶ範囲を意図的に制限する内容が多く、時には彼女を「網に捕らえる」伝説さえ存在します。これは彼女自身が捕らえられることを望んだという言い伝えもあり、神話が持つ逆転の性質が強調されていました。また、ギリシアの著述家たちは、彼女をゼウスの娘とすることで、伝統的な家父長制度に基づく解釈を示し、ゼウスの生誕を支えた役割を持つ存在として位置づけることがありました。

また、ブリトマルティスは関連する神々とも関連付けられ、特にアルテミスとの結びつきが強調されます。初期の印章や硬貨の中には、彼女が百獣の女王として描かれているものがあり、アルテミスの一形態として、初期の信仰につながる部分があります。特にギリシアでは、彼女の姿は母性や狩猟の象徴として、神々の系譜に位置付けられています。

ヘレニズム期や古代ローマ時代には、ブリトマルティスは特定の神話や伝説の中で改良された形を持ち、ディクテュンナという名でも知られました。彼女は「狩猟の網」を発明した女神として語られ、ミーノースに追われた彼女が海に身を投げた後、漁師に助けられるという物語が語られることで、彼女の存在がギリシア全体に広まることが示唆されています。この伝説には各地におけるディクテュンナ信仰が反映され、特にクレーテー島西部にあたるキドニアには彼女に捧げられた神殿が存在していました。

さらに、信仰の発展の中で、アパイアーという形でのブリトマルティスも重要な役割を果たし、アイギーナ島では特に信仰されていました。古代ローマの時代には女神の姿が多様化し、神殿の建設なども行われました。

また、エドマンド・スペンサーの叙事詩『妖精の女王』における「ブリトマート」としてのブリトマルティスは、イングランドの軍事力の象徴としても描かれ、彼女の名前が新たな物語に用いられています。ブリトマルティスという女神は、古代から現代にかけて、その象徴的な存在がさまざまな形で受け継がれてきたことを物語っています。

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