アパラチアの春

アパラチアの春 (Appalachian Spring)

アーロン・コープランド作曲のバレエ音楽『アパラチアの春』は、20世紀アメリカ音楽を代表する作品の一つです。1944年10月30日にワシントンD.C.で初演され、作曲者コープランドは翌年、この作品でピューリッツァー音楽賞を受賞しました。

誕生の背景

このバレエは、振付家でありダンサーのマーサ・グレアムからの依頼と、エリザベス・クーリッジ夫人の委嘱によって作曲されました。当初、コープランドは題名をつけておらず、『マーサのためのバレエ』と呼んでいましたが、初演直前にグレアムがハート・クレインの詩の一節から『アパラチアの春』という題名を提案しました。

物語と舞台

舞台は1800年代のペンシルベニア州。開拓民たちが新しい家を建てた後の、春の祝典の様子が描かれています。物語の中心となるのは、新婚の夫婦、隣人たち、そして復興運動の説教者とその信徒たちです。舞台セットは、彫刻家のイサム・ノグチがデザインしました。

編曲

オリジナルは13人編成の小管弦楽のために書かれ、演奏時間は約33分です。その後、コープランド自身によってオーケストラ組曲に編曲され、広く知られるようになりました。組曲版の演奏時間は約25分で、作曲家を一般化させるうえで重要な役割を果たしたとされています。さらに1972年には、オーケストラ組曲の構成と元のバレエの編成を合わせたバージョンの組曲譜も出版されました。

楽曲構成

オーケストラ組曲は8つの部分に分けられ、それぞれの部分で異なる情景や感情が表現されています。

1. 非常にゆっくり: 光に包まれた中で、登場人物が一人ずつ紹介されます。
2. 速く: 弦楽器のアルペジオが飛び出し、動きが始まります。高揚感と厳粛さが感じられます。
3. 中ぐらいの早さ: 花嫁とその婚約者の二重奏。優しさと情熱が表現されます。
4. かなり速く: 復興運動主義者とその信徒たち。スクウェアダンスを思わせる素朴な雰囲気です。
5. なおも速く: 花嫁が一人で踊ります。母性の予感、喜び、恐れ、驚きが表現されます。
6. 非常にゆっくり: 冒頭の音楽が回想される移行部分です。
7. 穏やかに、流れるように: 花嫁と農夫である夫の日々の仕事の場面。シェーカー教徒の旋律「The Gift to Be Simple」（Simple Gifts）の変奏曲が5つ登場します。この旋律は、エドワード・D・アンドリュースによって収集され、シェーカー教徒の音楽として出版されたものです。
8. 中ぐらいの早さ: コーダ。花嫁はいつも隣人に囲まれています。夫婦は新しい家で静かに、力強く生きていく決意をします。ミュートをかけた弦楽器が、祈りのようなコラールを奏で、冒頭の音楽が回想されて幕を閉じます。

Simple Gifts (シンプル・ギフト)

第7楽章に登場するシェーカー教徒の旋律「Simple Gifts」は、特に有名で、多くのTVコマーシャルにも使用されています。コープランドは、この楽章のみを独立させて、吹奏楽やオーケストラ用に編曲し、「シェーカー派の楽曲による変奏曲」として出版しています。

この旋律は、シンプルでありながら心に響く美しさを持っており、『アパラチアの春』全体のテーマである、希望、信仰、そして共同体の温かさを象徴しています。

まとめ

『アパラチアの春』は、アメリカの開拓時代の生活を背景に、人間の普遍的な感情を描き出した傑作です。コープランドの音楽は、シンプルでありながら力強く、聴く人の心に深く響きます。バレエ音楽としてだけでなく、オーケストラ組曲としても広く親しまれ、多くの人々に感動を与え続けています。

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