アパラチアン・ダルシマー

アパラチアン・ダルシマー：アメリカが生んだ素朴で美しい弦楽器

アパラチアン・ダルシマーは、アメリカのアパラチア地方で生まれた独特の弦楽器です。その歴史は19世紀初頭に遡り、スコッチ・アイルランド系の移民たちが、ヨーロッパの様々な弦楽器を参考にしながら作り上げたとされています。別名としてマウンテン・ダルシマー、ケンタッキー・ダルシマーなど、多様な呼び名が存在します。

起源と歴史

アパラチアン・ダルシマーの起源は、アパラチア山脈に住む移民たちのコミュニティに根ざしています。彼らは、スウェーデンのフンメル、ノルウェーのランゲレイク、ドイツのシャイトホルト、フランスのエピネット・デ・ヴォージュなど、ヨーロッパの類似した楽器から影響を受け、独自の楽器を作り上げました。初期の入植者たちは、道具や時間の制約から、複雑なヴァイオリンを作ることができず、よりシンプルなダルシマーを製作したという説もあります。

1880年頃から、ケンタッキー州のJ.エドワード・トーマスがダルシマーの製作・販売を開始し、その名が広まりました。ダルシマーは、その控えめな音量から、家庭での小さな集まりに適した楽器として親しまれました。20世紀前半には、アパラチア地方に散らばったプレイヤーに、ごく少数のメーカーが楽器を供給する程度でしたが、1950年代の都市型民族音楽のリバイバルをきっかけに、再び注目を集めるようになりました。

ジーン・リッチーをはじめとするミュージシャンたちが、ダルシマーの魅力を広め、1960年代にはアメリカの民族音楽シーンで広く知られるようになりました。その後、マイケル＆ハワード・ラッグが楽器の量産化に成功し、デザインの改良や金属製チューナーの導入により、演奏が容易になりました。

構造と形状

アパラチアン・ダルシマーは、木材で作られた箱型のボディに、3〜6本の金属弦が張られた楽器です。伝統的には、楽器の製作家が住む地域で入手しやすい木材が使用されていましたが、現代では、ギター製作の技術が取り入れられ、スプルースやシダーなどのトーンウッドがサウンドボックスに使用されることが多くなりました。ボディの形状は、砂時計型、楕円形、涙滴型、台形など、様々なバリエーションがあります。

サウンドボックスには、通常2〜4個のサウンドホールがあり、ハート型やヴァイオリンのfホールのような形状が好まれます。ネックには、全音階のフレットが取り付けられており、ゼロフレットが付いているものもあります。フレットの配置は、ダイアトニック・スケールに基づいており、ギターやバンジョーのような半音階のフレットとは異なります。

フレット、弦、調弦、調子

アパラチアン・ダルシマーのフレットは、通常ダイアトニック・スケールで配置されていますが、1950年代には、半音下に追加のフレットが加えられるようになりました。これにより、多様なスケールやモードでの演奏が可能になりました。弦は金属製で、バンジョーやギターに使われる弦とよく似ています。調弦には様々なバリエーションがありますが、D3-A3-A3、D3-A3-D4、D3-G3-D4などが一般的です。

演奏方法

アパラチアン・ダルシマーは、比較的簡単に習得できる弦楽器として知られています。伝統的な演奏方法は、楽器を膝の上に平らに置き、右手で弦を弾き、左手でフレットを押さえるというものです。ノーターと呼ばれる棒を使ってメロディ弦をフレットし、他の弦はドローンのように鳴らす奏法が一般的です。現代では、コードを演奏したり、様々な演奏スタイルが用いられるようになりました。

現代での使用

アパラチアン・ダルシマーは、アメリカのオールド・タイム・ミュージックの伝統に欠かせない楽器ですが、現代のミュージシャンによって、様々なジャンルで演奏されています。エレクトリック・ダルシマーも登場し、その可能性はさらに広がっています。現在では、米国、カナダ、英国、アイルランドなど、多くの国でダルシマー・フェスティバルが開催されています。

ブライアン・ジョーンズ（ローリング・ストーンズ）やジョニ・ミッチェルなど、著名なミュージシャンもダルシマーを演奏しており、その魅力は世代を超えて受け継がれています。

バリエーション

アパラチアン・ダルシマーには、ボディの形状、材質、弦の数、サイズ、音域など、様々なバリエーションが存在します。求愛ダルシマーやダブルネック・ダルシマーのような珍しい楽器もあります。また、ギター・ダルシマーやバンジョー・ダルシマーのような、他の楽器との融合も試みられています。

アパラチアン・ダルシマーは、その素朴な音色と美しい旋律で、多くの人々を魅了し続けています。その多様な可能性は、これからも新しい音楽を生み出していくことでしょう。

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