アビーリオ・ディニス

アビーリオ・ドス・サントス・ディニス：ブラジル小売業界の巨人

アビーリオ・ドス・サントス・ディニス (1936年12月28日 - 2024年2月18日) は、ブラジルを代表する実業家の一人であり、ブラジル最大の小売グループであるGrupo Pão de Açúcar（ポン・ヂ・アスカール・グループ）の礎を築いた人物です。サンパウロ市に生まれた彼は、ポルトガルからの移民である父ヴァレンチン・ディニスの影響を受け、幼少期からビジネスの世界に接していました。

華麗なる経歴：学業からビジネス界の成功まで

ディニスは、優秀な成績でサンパウロ経営学校を卒業した後、アメリカ合衆国ミシガン州立大学大学院へ留学するなど、学業にも励みました。帰国後、1949年に父が創業した会社に20歳の若さで入社。販売部門の責任者として手腕を発揮し、1959年にはグループ初となるスーパーマーケットを開設しました。その後、事業は拡大を続け、スーパーマーケットチェーンのポン・ヂ・アスカール、そしてより大規模なハイパーマーケットチェーンのエクストラなどを傘下に収めるまでに成長しました。

彼の才能はビジネス界にとどまりませんでした。1979年にはブラジルの通貨審議会メンバーに選出され、10年間その職務を担いました。この経験は、後の経営判断においても大きな財産となったことでしょう。

試練と克服：家族間の対立、誘拐、そして経済危機

順風満帆だったディニスのキャリアにも、幾多の困難が待ち受けていました。1980年代後半には家族間で資産分配をめぐる対立が発生し、1992年にはグループの株式再分配という難しい決断を迫られました。さらに、1989年には誘拐事件に巻き込まれ、6日間監禁されるという衝撃的な出来事も経験しています。

1990年代初頭には、ブラジル経済の深刻なインフレと、フェルナンド・コロール・デ・メロ政権による政策の影響を受け、Grupo Pão de Açúcarも大きな打撃を受けました。預金凍結による支払い不能状態に陥ったグループは、やむを得ず株式を公開することとなります。また、1996年には企業間における不正資金取引に関与したとして、1年4ヶ月の服役を経験しています。

再生と発展：グローバルな戦略と事業再編

これらの困難を乗り越え、ディニスはGrupo Pão de Açúcarの再建に尽力しました。1999年にはフランスのカジノグループがグループの議決権付き株式の24%を取得、グローバルな展開を加速させます。2000年には大胆な事業再編を行い、店舗の1/3を閉鎖、22,700人の従業員を解雇する苦渋の決断を下しました。しかし、この再編は、Grupo Pão de Açúcarをブラジル最大の小売チェーンへと成長させる原動力となりました。2004年末には、グループ全体の店舗数は550店近くにまで回復しています。

多様な才能と豊かな人生：スポーツマンとしての顔と慈善活動

ディニスは、優れた経営手腕だけでなく、スポーツマンとしても知られていました。ランニング、水泳、スカッシュなどを愛し、1994年からはニューヨークシティマラソンにも参加するなど、健康的な生活を送り続けました。アメリカの経済誌『フォーブス』のランキングでは、世界長者番付に名を連ね、ブラジルでもトップ10に入るほどの資産を築き上げました。

彼はまた、2男2女の子息にも恵まれ、それぞれがブラジル国内で活躍する人物となっています。次男のペドロ・パウロは、元F1ドライバーとして知られています。

2004年には自らの経験を綴った著書『Caminhos e Escolhas』を出版し、その後、英語版も刊行されました。

2024年2月18日、87歳でこの世を去りました。アビーリオ・ドス・サントス・ディニスが残した功績は、ブラジル経済史に大きな足跡として刻まれるでしょう。

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