アブド・アル＝ハック2世

アブド・アル＝ハック2世

アブド・アル＝ハック2世（生年不詳 - 1465年5月19日）は、15世紀にモロッコを支配したマリーン朝のスルターンです。彼はアブー・サイード・ウトマーン3世の子として生まれ、1420年/21年から1465年まで在位しました。

生涯

1420年、父王の暗殺後、わずか1歳で即位したアブド・アル＝ハック2世。しかし、幼い彼の即位は、王位を巡る後継者争いを引き起こします。このような状況下で、ワッタース家のアブー・ザカリヤーが台頭し、王室との婚姻関係を築きながら、マリーン朝内での影響力を拡大していきます。

アブー・ザカリヤーは、当初アブド・アル＝ハック2世を支持し、政敵に対抗しましたが、次第にその権勢はマリーン朝全域に及ぶようになりました。成長したアブド・アル＝ハック2世は、1437年にアブー・ザカリヤーを宰相職から罷免し、親政を目指します。

同年、マリーン朝はタンジールをポルトガルの攻撃から守り抜くという軍事的成功を収めます。この勝利は国民の士気を高め、防衛を指揮したアブー・ザカリヤーの威信をさらに高める結果となりました。また、1438年には首都フェズでイドリース朝の君主イドリース2世の墓が偶然発見され、その墓廟は巡礼地として重要な場所となっていきます。

しかし、アブド・アル＝ハック2世の治世後半は、国内の混乱と不満が高まりました。1458年、彼はワッタース家の人間を虐殺し、代わりにユダヤ教徒を要職に登用します。この政策は、イスラム教徒の反発を招きました。ユダヤ教徒たちはイスラム教徒を抑圧し、彼らに有利な裁定を下したため、マリーン朝のイスラム教徒たちの不満は鬱積していきました。

特に、ユダヤ教徒の警察長官フサイン・アル＝ヤフーディーが、預言者ムハンマドの子孫であるシャリーフの女性を尋問し侮辱した事件は、フェズ市民の怒りを爆発させました。1465年5月19日、ついにアブド・アル＝ハック2世は新フェズで暴徒化した市民に襲撃され、殺害されました。

彼の死はマリーン朝の終焉を意味し、その後、シャリーフによる一時的な政権がモロッコを統治することになります。

参考文献

私市正年「マグリブ中世社会のユダヤ教徒―境域の中のマイノリティ」『イスラーム世界の発展』収録（岩波講座 世界歴史10, 岩波書店, 1999年10月）
那谷敏郎『紀行 モロッコ史』（新潮選書, 新潮社, 1984年3月）
Abun Nasr, J.M. (1987). A History of the Maghrib in the Islamic period. Cambridge University Press
Bosworth, Clifford E. (1996). The New Islamic dynasties. Edinburgh University Press.
Julien, Charles-André (1931). Histoire de l'Afrique du Nord, des origines à 1830. Paris: Payot
Powers, David S. (2002-09-30). Law, Society and Culture in the Maghrib, 1300-1500. Cambridge University Press.

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