アブラハム・カイパー

アブラハム・カイパー（1837年10月29日 - 1920年11月8日）は、オランダの多才な人物であり、政治家、ジャーナリスト、そして神学者としてその名を歴史に刻みました。ヘルマン・バーフィンクと共にオランダ改革派教会（Gereformeerde Kerken in Nederland）の設立に深く関わり、さらに反革命党を創設して1901年から1905年までオランダの首相を務めたことでも知られています。彼の名は「コイペル」と表記されることもあります。

生い立ちと回心

カイパーは牧師の父と元教員の母の間に長男として生まれました。幼少期から信仰深い家庭環境で育ちましたが、10歳になった1848年10月10日午前11時15分、彼は深い回心の体験をしました。この回心は、彼のその後の人生における信仰の基盤となりました。

学生時代と信仰の変遷

1855年、カイパーはライデン大学の神学部に入学しました。そこで彼はジャン・カルヴァンの神学とヨハネス・ア・ラスコーの比較教会論について研究し、学位論文を執筆しました。しかし、当時の大学はリベラルなライデン学派の影響下にあり、カイパーは次第に子供の頃からの信仰を失い、信仰が後退していきました。講師のスホルテンがキリストの体の復活を否定した際、それを歓迎するほどでした。しかし、この信仰の迷いは長くは続きませんでした。婚約者に勧められたシャーロット・M・ヨングの『レッドクリフの相続人』を読んだカイパーは、感動のあまり子供のように泣き、再び神の御前にひざまずいて祈るようになったのです。

ミニストリーと政治活動

カイパーはベーストで牧会を始め、貧しい労働者たちから多くのことを学びました。1867年にはユトレヒトに、1870年にはアムステルダムに招聘され、牧師として活動しました。1874年には国会議員に選出され、政治の世界にも足を踏み入れました。1875年には、伝道者のドワイト・ムーディー、イラ・サンキー、ロバート・ピアソル・スミスらの伝道集会に参加し、主の臨在を深く感じました。

政治的には、フランス革命に由来する自由主義的な潮流だけでなく、社会主義にも強く反対しました。1879年には反革命党を結成し、『我らが綱領』においてキリスト教的な価値観に基づいた社会保守主義を提唱しました。また、ドレアンティー（嘆き、抗議）運動を主導し、1886年にオランダ国教会改革派教会から分離して、オランダ改革派教会を設立しました。

1898年10月10日からは、プリンストン神学校でストーン講義を行いました。これらの活動を通して、カイパーは神学と政治の両面で大きな影響力を持つ人物となりました。

日本語訳された著書

カイパーの著作は、日本語にも翻訳されており、日本においても彼の思想に触れることができます。

『カルヴィニズム』（上田丈夫訳、長崎書店、1932年）
『カルヴィニズム』（鈴木好行訳、聖山社、1988年）
『聖書の女性 旧約篇』（新教出版社、1980年）
『聖書の女性 新約篇』（新教出版社、1980年）

これらの著書を通じて、カイパーの神学思想や社会観に触れることができます。

関連項目と参考文献

カイパーの思想は、無千年王国説と関連付けられることがあり、彼の神学的な立場を理解する上で重要な要素となっています。

無千年王国説

また、彼の思想を深く理解するための参考文献として、以下の書籍が挙げられます。

『近代主義とキリスト教』アブラハム・カイパーの思想（P.S.ヘスラム著、稲垣久和・豊川慎訳、教文館）

カイパーは、その多岐にわたる活動を通して、オランダだけでなく世界中の神学、政治、そして社会に大きな影響を与えた人物です。彼の生涯は、信仰と社会への責任をどのように結びつけるかを考える上で、多くの示唆を与えてくれます。

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