アブー・ウバイダ

アブー・ウバイダ・アーミル・ブン・アル＝ジャッラーフ

アブー・ウバイダ・アーミル・ブン・アル＝ジャッラーフ（581年? - 639年）は、イスラームの預言者ムハンマドの教友（サハーバ）であり、正統カリフ時代のシリア総督を務めた人物です。「楽園を約束された10人」の一人としても知られています。

生涯

クライシュ族のバヌー・アル＝ハーリス・ブン・フィフル氏族出身で、メッカで生まれました。ムハンマドがメッカで布教を始めた頃からの教友であり、611年にイスラームに改宗したと伝えられています。豪胆さと滅私奉公の精神を兼ね備えており、ムハンマドから「アミーン」（信頼をおける者）と呼ばれていました。

624年のバドルの戦いをはじめ、ウフドの戦いなど各地の戦いに従軍しました。ムハンマドからヤマン人（イエメン）への改宗と指導を任され、派遣されています。

632年にムハンマドが亡くなると、ウマルとともにアブー・バクルをカリフとして推挙しました。ある伝承によると、アブー・バクルはウマルとアブー・ウバイダの間に座り、彼らとともにアブー・バクルのカリフ位を推挙したと伝えられています。

第2代正統カリフ・ウマルの時代には、シリア方面軍司令官として、ヤズィードやムアーウィヤ兄弟とともに派遣されました。当時、軍司令官は征服地域の行政も担当したため、アブー・ウバイダはシリア方面の軍事と行政の全権を担うことになりました。

シリア戦線では、東ローマ帝国軍に苦戦したため、ウマルに救援を要請しました。これを受けて、ウマルはハーリド・イブン＝アル＝ワリードをシリアへ転戦させました。アブー・ウバイダはハーリドを尊重し、彼の献策や政策を信頼して作戦を円滑に進めました。

636年のヤルムークの戦いで、アブー・ウバイダとハーリドが指揮するアラブ軍は東ローマ帝国軍を破り、ヒムス、アレッポ、アンティオキアを含む北シリア一帯を制圧しました。また、ダマスクスも降伏し、637年にはエルサレムの開城交渉を行い、ウマルのシリア来訪を要請しました。ウマルの後援によってシリア地方の行政機構が整備され、アブー・ウバイダの権限も確立されました。ダマスクスをシリア支配の拠点としたことが、後にウマイヤ朝の首都となる起源となりました。

639年にシリアで疫病が発生し、多くのアラブ兵が命を落としました。アブー・ウバイダもこの疫病により亡くなりました。ウマルはアブー・ウバイダをメディナへ召還しようとしましたが、彼は任地を離れることを拒み、そのまま亡くなったと伝えられています。58歳で、子供はいませんでした。

アブー・ウバイダの死後、シリア総督職はヤズィードに引き継がれましたが、彼もまた病没しました。その後、ムアーウィヤがシリア総督となり、後にウマイヤ朝を開きました。

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