カリフ

カリフの概要

カリフ（英語: Caliph）は、預言者ムハンマドの死後、イスラム共同体を統括する指導者の称号です。その原義は「後継者」であり、ムハンマドを代理する存在とされています。カリフの役割はイスラム共同体の行政を管理し、信徒にイスラムの教えを守らせることにあります。ただし、カリフ自体は宗教的権限を持たず、教義の解釈についてはウラマーの合意が必要です。

カリフに求められる条件

スンナ派においてカリフとされる者にはいくつかの条件があります。主な条件は以下の通りです。

• - 男性であること
• - 自由人であること
• - 成年者であること
• - 身体的・精神的に健全であること
• - 公正であること
• - 法的知識を有していること
• - 賢明さを持つこと
• - イスラム領土の防衛に勇敢であること
• - クライシュ族の男系の子孫であること

とはいえ、歴史的に見ると、これらの条件は必ずしも守られていませんでした。例えば、オスマン帝国では本来のクライシュ族の血統から外れる事例も見られたほか、ハワーリジュ派やムータジラ派は、奴隷や黒人であってもイスラム教徒であればカリフになれると主張しました。

カリフの歴史

カリフ制度は、632年にムハンマドが死亡した後、アブー・バクルが「神の使徒の代理人」として初代カリフに選ばれたことから始まります。その後、ウマル、ウスマーン、アリーと続き、彼らはカリフとしての権威だけでなく、信徒たちのリーダーシップも担っていきました。しかし、歴史が進むにつれて、ハワーリジュ派やシーア派が登場し、カリフの権威に挑戦を繰り返し、結局スンナ派の信徒たちが主流となる事態となりました。

10世紀頃からアッバース朝のカリフは実権をアミールに委譲するようになり、カリフ自体が名目上の存在に過ぎなくなりました。さらに、ファーティマ朝や後ウマイヤ朝もカリフを名乗るようになり、スンナ派全体に対する影響力が失われていきました。1258年にはモンゴル帝国による攻撃でアッバース朝のカリフが処刑される事件が発生し、この時点でアッバース朝も滅びましたが、マムルーク朝が生き残ったアッバース家の者をカイロに迎え新たなカリフとして擁立しました。

オスマン帝国とカリフ

1517年にマムルーク朝がオスマン帝国に滅ぼされたことで、カイロ・アッバース朝のカリフは廃位され、オスマン家のスルタンがカリフの称号を引き継ぎました。ここからスルタン＝カリフ制が誕生し、オスマン帝国は当初は実力でイスラム世界を統治していましたが、18世紀ごろからロシアなどの国々に対する軍事的劣位が明らかになると、カリフの権威を利用することが必要とされました。スルタンとカリフの地位を兼ね備えた支配者として振舞うことが一般化しました。

最後のカリフと近代の発展

オスマン帝国の崩壊に伴い、スルタンが1922年に退位し、カリフ制も1924年に廃止されました。アブデュルメジト2世が最後のイスラム世界で認められたカリフとなり、その後はカリフ自称者が現れましたが、広く認められることはありませんでした。2014年には過激派組織ISILがカリフを名乗るなどの動きもありましたが、国際社会からは承認を受けられず、多くの混乱を招いています。現在もカリフ制復活を求める声は存在しますが、支持は限られています。

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