アマチュア倶楽部

1920年の傑作喜劇『アマチュア倶楽部』：失われたフィルムの足跡

『アマチュア倶楽部』は、1920年（大正9年）に公開された、日本映画史にその名を刻む作品です。大正活映（大活）の設立第一作として、多くの革新的な試みと、今では見ることのできない貴重な映像で彩られています。

本作の脚本は、文豪谷崎潤一郎のオリジナル作品。監督はトーマス・栗原が務め、湘南の海を舞台に、若者たちの騒動を描いたアメリカ風のドタバタ喜劇となっています。当時としては画期的な、クロスカッティングやクローズアップといった撮影技法、そしてコンテの使用など、アメリカ映画の手法が積極的に取り入れられた点が注目に値します。

とりわけ、本作は日本映画史上初めて水着姿の女性が登場した作品としても知られています。主演の葉山三千子が披露した水着姿は、大きな話題を呼び、彼女は「日本最初の水着美人」として称えられました。しかし、残念ながらフィルムは現存せず、現代ではその姿を目にすることはできません。

鎌倉の海辺と、アマチュア劇団の騒動

物語は、鎌倉の由比ヶ浜の海水浴場から始まります。若者たちが浜辺で楽しんでいるところに、水着姿の女性、三浦千鶴子が現れ、たちまち彼らの視線を集めます。一方、千鶴子の家では家宝の土用干しが行われていますが、そこに泥棒が侵入するという事件が発生します。

並行して描かれるのは、村岡繁を中心としたアマチュア劇団「アマチュア倶楽部」の物語です。彼らは村岡の別荘で、歌舞伎の『太閤記十段目』と『先代萩 床下の場』の練習に励んでいました。泥棒騒動、アマチュア劇団の稽古、そして突然帰ってきた父親、様々な出来事が複雑に絡み合い、物語は予測不能な展開へと進んでいきます。

泥棒は千鶴子の家から逃げ出し、アマチュア劇団の公演中に現れた父親に追われた劇団員たちは、衣装のまま逃げ出します。泥棒は再び千鶴子の家へ忍び込みますが、今度は鎧を着た千鶴子と遭遇。浜辺を舞台に、泥棒、千鶴子、そして警察による、四つ巴の追いかけっこが繰り広げられます。

新人俳優と豪華な顔ぶれ

本作には、大活の俳優養成所出身の新人俳優が多く起用されました。「型」にとらわれない自由な演技が求められ、岡田時彦（高橋英一名義）、内田吐夢（閉田富名義）、井上金太郎（栗井饒太郎名義）といった、後に活躍する俳優たちも名を連ねています。他にも葉山三千子、紅沢葉子、谷崎潤一郎の夫人と娘、そして装置担当の尾崎庄太郎、活動弁士の内藤紫漣、杉浦市郎、白石紫紅など、豪華な顔ぶれが揃っていました。

撮影は1920年8月20日に開始され、9月下旬に完成。同年11月19日、有楽座で封切られました。冒頭、煙草を吸う谷崎潤一郎の顔がクローズアップで映し出される演出は、当時大きな話題となったと言われています。

失われたフィルム、そして残された記録

残念ながら、『アマチュア倶楽部』のフィルムは現存していません。私たちは、写真や文献からの情報、そしてわずかに残された記録から、この映画が持つ革新性とエンターテイメント性を想像するしかありません。しかし、日本映画史におけるその意義は、多くの研究者によって評価され続けています。この作品が、日本の映画表現に与えた影響は、計り知れないものがあると言えるでしょう。現在、私たちに残されたのは、当時の記録と、失われた名作への想像力のみです。

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