アマテラス粒子

アマテラス粒子（アマテラスりゅうし、英語: Amaterasu particle）は、2021年に観測された超高エネルギー宇宙線です。そのエネルギーは244エクサ電子ボルト（EeV）という途方もない規模に達し、物理学界に大きな関心と謎をもたらしました。

観測とその特異性

この粒子が捉えられたのは、2021年5月27日のことです。大阪公立大学を中心とした国際研究チームが、アメリカ合衆国ユタ州の砂漠地帯に設置されているテレスコープアレイ実験の観測装置、具体的には507台の地表検出器を用いてこの現象を記録しました。検出された宇宙線のエネルギーは244エクサ電子ボルトという驚異的なもので、これは1991年に同じくユタ州で発見されたオーマイゴッド粒子（エネルギー320 EeV）に次ぐ、史上2番目に高いエネルギーを持つ宇宙線です。

宇宙線はそのほとんどが陽子やヘリウム原子核などの荷電粒子ですが、これほどまでに高いエネルギーを持つ粒子は極めて稀です。特に、理論的に予測されるエネルギーの壁であるGZK限界（宇宙背景放射との相互作用により、宇宙線のエネルギーが特定の限界値を超えると急速に失われる現象）を超えるエネルギーを持つ宇宙線の一つとして、アマテラス粒子は観測が困難とされる領域に存在します。

エネルギーの規模

アマテラス粒子が持つ244 EeVというエネルギーは、日常的なスケールでは想像しがたいものです。もしこの粒子が陽子であると仮定すると、その速度は光速の99.99999999999999999999926 %に相当します。これはほぼ光速に等しい速度で、宇宙空間を駆け抜けてきたことを意味します。この亜原子粒子一つが持つエネルギーは、私たちの身近な現象と比較すると、時速約84キロメートルで投げられた野球ボールが持つ運動エネルギーや、腰の高さから地面に落ちる一個のレンガが持つエネルギーとほぼ同程度という、非常に具体的な比較がなされています。一個の極小粒子に、このような巨視的な物体が持つ運動エネルギーが凝縮されていることからも、そのエネルギーの異常な高さが理解できます。

名前の由来

「アマテラス粒子」という名称は、日本神話に登場する主要な神である天照大神（アマテラスオオミカミ）にちなんで名付けられました。この命名にはいくつかの理由があります。先行して発見されたオーマイゴッド粒子に「神（God）」が含まれていることへの連想、粒子が検出されたのが明け方であったこと（天照大神は太陽神）、粒子発見の信号を最初に解析したのが日本人研究者（大阪公立大学の藤井俊博氏）であったことなどが挙げられます。また、今後の観測でアマテラス粒子を超えるエネルギーの粒子が発見された場合でも、日本神話に登場する他の神々（例えばイザナギやイザナミなど）にちなんだ命名を行う余地を残すという意図も込められています。

発生源の謎

アマテラス粒子のような超高エネルギー宇宙線の最大の謎の一つは、その発生源です。この粒子が飛来した方向は、宇宙の大規模構造において物質が希薄な領域であるローカル・ボイドの方向と一致しています。しかし、その方向に粒子をこれほどまでに加速できるような、既知の強力な天体（例えば活動銀河核やガンマ線バーストなど）は特定されていません。この発生源の不明さから、その起源については様々な仮説が提唱されています。主なものとしては、以下のような説があります。

1. 銀河磁場による湾曲説: 宇宙線は荷電粒子であるため、銀河や銀河間空間の磁場の影響を受けて軌道が曲がります。アマテラス粒子が飛来した方向に見える天体がなくても、遠方にある加速源から放出された粒子が、磁場によって大きく軌道を曲げられて地球に到達した可能性。
2. 未知の天文現象説: 我々がまだ知らない、あるいは理解していない種類の極めて強力な宇宙現象が発生源である可能性。
3. 暗黒物質（ダークマター）崩壊説: 宇宙の質量の大部分を占めるとされる謎の物質、ダークマターが崩壊する際に、このような超高エネルギー粒子を生成した可能性。

これらの説はいずれも決定的な証拠があるわけではなく、アマテラス粒子の発生源は現在も活発な研究対象となっています。この稀有な粒子の観測は、宇宙における極限的なエネルギー現象や、未知の物理法則の探求に繋がる重要な手がかりと考えられています。

アマテラス粒子