電子ボルト

電子ボルト（eV）

電子ボルトとは、エネルギーの単位の一つであり、記号は「eV」で表されます。この単位は非SI単位でありながら、SI単位系との併用が行われています。しかし、正式な計量単位として法に定められているわけではありません。

定義

電子ボルトは、自由空間において電気素量を有する荷電粒子が、1ボルトの電位差を抵抗なしで通過する際に得られるエネルギーとして定義されています。すなわち、1 eV は正確には 1.602176634×10⁻¹⁹ジュール に相当します。この定義は2019年にSI基本単位の見直しに伴い、より正確な値として確立されました。

用途

電子ボルトは、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、高エネルギー物理学、化学、そして半導体工学といった多様な分野で広く使用されています。特にエレクトロンボルト（electron volt）という名称で親しまれ、物質のエネルギーを記述するのに便利です。

単位の拡張

電子ボルトはSI接頭語を用いることで倍量や分量を表現できます。例えば、

• - 分量単位：meV（ミリ電子ボルト）、μeV（マイクロ電子ボルト）
• - 倍量単位：keV（キロ電子ボルト）、MeV（メガ電子ボルト）、GeV（ギガ電子ボルト）、TeV（テラ電子ボルト）など。

特に物性物理学では、数meVから数eVの範囲でのエネルギーが議論されます。一方、高エネルギー物理学では数MeVから数GeVのエネルギーが用いられます。宇宙物理学では、TeVからPeVの宇宙線のエネルギーが観測され、さらにZeVオーダーの非常に高いエネルギーを持つ宇宙線も確認されています。

エネルギーと質量の換算

エネルギーと質量は、アルベルト・アインシュタインの特殊相対性理論により関連付けられています。具体的には、質量はエネルギーと等価であるため、電子ボルトを質量単位（kg）に変換することができます。1 eV/c²は約 1.782662×10⁻³⁶ kg に相当します。電子や陽子の質量はそれぞれMeV/c²で表され、この関係は実際の計算において重要な役割を果たしています。

温度との関連

エネルギーの値を温度に換算するために、ボルツマン定数（kB）を利用することができます。その結果、電子ボルトで表されたエネルギーをこの定数で割ることで、熱力学温度（K）を得ることができます。例えば、3/2 eV の平均運動エネルギーをもつ理想気体の温度は約11604.5181 Kとなります。

主な応用

日常生活で電子ボルトはあまり用いられませんが、学問や産業の現場ではその用途は多岐に渡ります。以下にいくつかの具体例を挙げます。

• - 物質中の電子のエネルギーを計算する際に、与えた電圧が1V変化することにより、電子の位置エネルギーが1 eV変化するため便利です。
• - 半導体内部のバンド構造やプラズマ中の電子エネルギーを示すのにも用いられます。
• - 高エネルギー物理学や医療分野において、加速器から放出される荷電粒子のエネルギーを表すのにも利用されます。
• - 光子と電子の相互作用では、電子ボルトを使うことで扱いやすくなります。

このように電子ボルトは、多様な分野でのエネルギー表現に役立つ重要な単位となっています。

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