アマデウス弦楽四重奏団

アマデウス弦楽四重奏団（Amadeus String Quartet）

20世紀後半のクラシック音楽界において、最も重要な弦楽四重奏団の一つとしてその名を刻むのが、アマデウス弦楽四重奏団です。彼らは1950年代から1970年代にかけて、国際的な演奏活動と数々の録音を通じて、弦楽四重奏の芸術における規範を確立しました。特筆すべきは、1948年の結成から1987年に活動を終えるまでの約39年間、一度もメンバーが変わることがなかったという類稀な事実です。この不変のメンバー構成こそが、彼らの緊密で一体感のあるアンサンブルの根幹をなしていました。

団を構成したのは、以下の4名です。

第1ヴァイオリン: ノーバート・ブレイニン（Norbert Brainin、1923年3月12日 ウィーン生 - 2005年4月10日 ロンドン没）
第2ヴァイオリン: ジークムント・ニッセル（Siegmund Nissel、1922年1月3日 ミュンヘン生 - 2008年5月21日 ロンドン没）
ヴィオラ: ペーター・シドロフ（Peter Schidlof、1922年7月9日 ウィーン生 - 1987年8月16日 ロンドン没）
チェロ: マーティン・ロヴェット（Martin Lovett、1927年2月3日 ロンドン生 - 2020年4月29日没）

彼らの出会いは、第二次世界大戦という激動の時代に遡ります。ブレイニンとシドロフはウィーン生まれのユダヤ人、ニッセルはミュンヘンでユダヤ人の両親のもとに生まれ9歳でウィーンに移住しました。1938年のナチス・ドイツによるオーストリア併合という歴史的事件を経て、彼らは反ユダヤ主義の迫害から逃れるため英国へと亡命しました。しかし、1939年9月に第二次世界大戦が勃発すると、彼らは英国政府によって敵国籍を持つ外国人として扱われ、マン島にあるオンカン収容所（Onchan Camp）に身柄を拘束されることになります。皮肉なことに、この収容所生活の中で、ブレイニン、ニッセル、シドロフの3人は初めて顔を合わせ、音楽家としての絆を育むこととなりました。

収容所からの解放後、彼ら3人は同じく英国に亡命していた高名なヴァイオリニスト、マックス・ロスタルに師事し、その薫陶を受けました。ポーランド生まれでありながらドイツ・オーストリアの伝統的な奏法に通じていたロスタルのもとで研鑽を積む中で、彼らはロスタルを通じて英国人のチェリスト、マーティン・ロヴェットと出会います。この出会いがアマデウス弦楽四重奏団結成の決め手となり、1948年に彼らは四重奏団として正式にデビューを飾りました。

彼らの音楽的なスタイルは「ウィーン的」あるいは「ドイツ・オーストリア流」と評され、その豊かな響きと表現力は世界中の聴衆を魅了しました。特に1950年代から1960年代にかけて集中的に行われた録音は、彼らの芸術性の高さを今に伝えています。モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスの弦楽四重奏曲全集は、その完璧な解釈と演奏技術により、これらの作品のスタンダード録音として現在でも高い評価を得ています。その他にも、シューベルトやドヴォルザークなどの重要な作品の録音も数多く残しており、これらは彼らの演奏史における輝かしい業績として位置づけられています。

約39年間にわたり、常に同一メンバーで活動を続けたアマデウス弦楽四重奏団でしたが、1987年8月16日、ヴィオラ奏者のペーター・シドロフが死去したことにより、その活動に終止符が打たれました。彼の死は、単に一メンバーを失っただけでなく、約40年にわたる彼らの独特なアンサンブルの歴史そのものの終わりを意味しました。しかし、彼らが残した膨大な録音は、彼らの偉大な音楽遺産として、世代を超えて多くの人々に聴き継がれています。不変のメンバーによる長期間の活動と、それによって培われた深い音楽的対話は、アマデウス弦楽四重奏団を単なる演奏団体ではなく、一つの芸術的な共同体として特別な存在にしています。彼等たらしめています。

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