アミソーダロス

アミソーダロス（Ἀμισώδαρος）

ギリシア神話に登場する人物で、時にアミソダロス（Ἀμισόδαρος）とも呼ばれる名を持ちます。彼はアテュムニオスとマリスという息子たちの父として記録されており、特に、神話の世界において恐ろしい怪物キマイラと深い関わりを持っていたことで知られています。アミソーダロスに関する記述は、古代ギリシアの詩人たちの作品や、後代の神話集に見られます。

怪物キマイラとの関係

アミソーダロスについて語られる最も有名な伝承は、彼がリュキアの地で怪物キマイラを養育したというものです。キマイラは、ライオンの頭部、ヤギの胴体、そして蛇の尾を持つという異形の合成獣であり、その口からは常に猛烈な火炎を吐き出しました。この怪物はリュキアの人々を苦しめましたが、コルキスの王女メーデイアの祖母にあたる魔女クラタイーイスの娘とされるキマイラは、英雄ベレロポーンによって討伐されることになります。ベレロポーンは有翼の馬ペーガソスに乗り、空からキマイラを攻撃して打ち倒したと伝えられています。アミソーダロスがどのような経緯でこの怪物に関わったのか、その詳細は明確ではありませんが、彼がキマイラの存在に深く関与していたことは、当時の人々にとって重要な情報であったと考えられます。

しかし、キマイラについては神話的な存在とする解釈とは異なる見方も伝えられています。一説によれば、キマイラとは実際の怪物ではなく、海賊の頭領キマロスであったとされます。この説では、アミソーダロスはアナトリア北西部のゼレイアの地からリュキア地方へこの海賊団を連れてきた人物であると語られます。海賊キマロスは船団を率いて沿岸部を荒らし、船首にライオン、船体中央にヤギ、船尾に蛇の装飾を施していたために「キマイラ」と呼ばれたのだという解釈も存在します。この異説においても、最終的に海賊キマロスは、英雄ベレロポーンによってその活動を阻止されたとされています。

息子たちの悲劇的な運命

アミソーダロスには、前述の通りアテュムニオスとマリスという二人の息子がいました。彼らはトロイア戦争の時代に、リュキアを統治していた王サルペードーンに仕えていました。サルペードーンは全能の神ゼウスの子であり、小アジアからトロイアを救援するために派遣されたリュキア軍の総大将として、トロイア側にとって最も頼りになる同盟者の一人でした。アミソーダロスの息子たちもまた、サルペードーン王に従い、遠くトロイアの平原でギリシア軍との激しい戦いに身を投じました。

しかし、彼らの運命は悲劇的なものでした。トロイア戦争の戦場で、二人の息子は命を落としてしまいます。彼らを討ち取ったのは、ギリシア軍の中で知恵と武勇で知られた老将ネストールの子である、ピュロスの武将アンティロコスとトラシュメーデースでした。アンティロコスはアキレウスに次ぐ速足の持ち主としても知られ、トラシュメーデースも父ネストールや兄アンティロコスと共に戦場で活躍しました。このように、アミソーダロスの二人の息子は、遥か異国の地で英雄的な戦いを繰り広げた末、壮絶な最期を遂げたのです。

まとめ

アミソーダロスという人物は、怪物キマイラという異形の存在との奇妙なつながり、そして息子たちが人類史上名高い大戦であるトロイア戦争で命を落とすという個人的な悲劇を通じて、ギリシア神話の様々な側面と結びついています。彼は直接的に大きな功績を上げた英雄として語られることは少ないかもしれませんが、彼の存在は、神話の世界が単なる英雄譚だけでなく、人ならざる存在との関わりや、家族に降りかかる悲劇をも含んでいることを示しています。アミソーダロスの物語は、リュキアという特定の地域と関連づけられながら、神話時代の複雑な人間関係と運命の残酷さを伝えるものと言えるでしょう。

もう一度検索