トラシュメーデース

トラシュメーデース

トラシュメーデース（古希: Θρασυμήδης, Thrasymēdēs）は、古代ギリシャ神話において、賢明な王として知られるピュロスのネストールを父とする人物です。彼の名前は、長母音を省略してトラシュメデスと表記されることもあります。

ネストールとエウリュディケー（あるいはアナクシビアー）の間の子として生まれたトラシュメーデースには、多くの兄弟姉妹がいました。兄弟としては、ペルセウス、ストラティオス、アレートス、エケプローン、アンティロコス、ペイシストラトスがおり、姉妹にはペイシディケー、ポリュカステーがいます。特にアンティロコスとはトロイア戦争で行動を共にすることが多く、深い絆で結ばれていました。

トラシュメーデースはまた、シロスという息子をもうけ、シロスの子であるアルクマイオーンの祖父にあたります。このアルクマイオーンの子孫は、後にアテーナイの有名な貴族であるアルクマイオニダイ家の祖先となったと伝えられています。

神話における事績

トラシュメーデースの人生における最も顕著な出来事は、父ネストールや弟アンティロコスと共に参加したトロイア戦争での活躍です。彼は、トロイア遠征に参加したピュロス軍の一員として、あるいは文献によっては15隻もの船からなるピュロス軍の一部隊を自ら指揮したとも伝えられています。

戦場では、彼は数々の武勲を立てました。キマイラを育てたという怪物アミソーダロスの子、勇猛な戦士マリスを討ち取ったことは、彼の力の証とされています。

戦況が緊迫する中、彼は重要な役割を担いました。特に、アキレウスが戦場から退いている間、その親友パトロクロスがアキレウスの鎧を借りて戦った際、ネストールの指示に従い、アンティロコスと共に最前線からやや離れた位置で、味方の状況に常に注意を払いながら戦線維持に貢献しました。そして、パトロクロスが討たれた後、その悲劇的な死をアキレウスに伝えるという重責を弟アンティロコスが担って戦場を離れた時、トラシュメーデースは一時的にピュロス勢の指揮を引き継ぎ、部隊を統率しました。

トロイア戦争の終盤、弟アンティロコスがエチオピアの王メムノーンに討たれるという悲劇に見舞われた際、トラシュメーデースは弟の仇を討とうとメムノーンに挑みましたが、その願いを果たすことはできませんでした。しかし、彼は敵将の一人であるアカマースを攻撃し、戦場からの撤退を余儀なくさせるなどの活躍を見せました。

また、彼は有名な「トロイアの木馬作戦」にも参加したギリシャの英雄の一人として名を連ねています。

戦後の帰還

長きにわたるトロイア戦争が終結した後、多くのギリシャの英雄が困難な帰路につく中で、トラシュメーデースは父ネストールと共に比較的平穏な航海を経て、無事故郷ピュロスへ帰還することができました。帰郷後、彼はオデュッセウスの息子テーレマコスが父の行方を探してピュロスを訪れた際に、父ネストールと共にテーレマコスを温かく迎え入れ、助言を与えています。

その他の人物

ギリシャ神話には、ペーネロペーの求婚者の一人として、ドゥーリキオン出身のトラシュメーデースという同名の人物も存在します。これは上記のネストールの子トラシュメーデースとは別人です。

トラシュメーデースという名前は、その功績を称えられ、小惑星の一つ（トラシュメーデース (小惑星)）に命名されています。これは、ネストールの子である彼にちなんだものです。

参考文献

ホメロス『イリアス』
アポロドーロス『ギリシャ神話』
クイントゥス『トロイア戦記』
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』

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