アミール・キャビール

ミールザー・タギー・ハーン・アミール・キャビール

ミールザー・タギー・ハーン・アミール・キャビール（1807年 - 1852年1月11日）は、ガージャール朝時代のペルシア（現在のイラン）で活躍した政治家であり、ナーセロッディーン・シャーの時代に大宰相を務めました。アミール・キャビールは彼の称号であり、アミーレ・キャビールとも呼ばれます。また、アミール・ネザーム、アターバクといった称号も持っていました。アターバクの称号を持つ人物はガージャール朝において他に2人しかおらず、アミール・キャビールはイラン近代史における最も重要な改革者の一人として位置づけられています。

生い立ち

アミール・キャビールの父であるキャルバラーイー・ゴルバーンは、19世紀初頭に大宰相を務めたミールザー・アボルガーセム・ガーエムマガームに仕えた料理人でした。アミール・キャビールは、ガーエム・マガームとその息子であるアボルガーセム・ガーエム・マガーム2世のもとで多くのことを学び、政治家としての基礎を築きました。

ペルシアの近代化

アミール・キャビールは、オスマン帝国に派遣され、長年続いていたペルシアとトルコの間の紛争終結に尽力しました。ナーセロッディーン・シャーの即位直後に発生したバーブ教徒の反乱を鎮圧し、王権の強化に貢献しました。

アミール・キャビールは、ペルシアの近代化を積極的に推進しました。

軍制改革

オスマン帝国での経験を生かし、軍事力の部族依存から脱却し、近代化・西欧化を目指した軍制改革を断行しました。アミール・ネザームの称号は、イラン全土の軍に対する指揮権を示す官職でもありました。軍制改革には技術の導入が不可欠であると考え、1851年にダーロル・フォヌーン（「技術の家」という意味）と呼ばれる教育機関を創設し、ペルシアで初めてとなるヨーロッパ型の高等教育を導入しました。

官制改革

政庁を組織化して官僚制を整備し、分権的な地方政府に対する統制を強化するとともに、宮廷、特に王室勢力の政治介入を抑制し、中央集権化を目指しました。全国に駅逓を設置し、地方政府と中央との定期的な通信を確保し、行政執行に対する中央の関与を強化しました。また、『ルーズナーメイェ・ヴァガーイェエ・エッテファーギーイェ』というペルシア初の官報的性格を持つ日刊紙を刊行し、国民への情報伝達を促進しました。

失脚と暗殺

アミール・キャビールの改革は、既得権益を持つ宮廷関係者や高位聖職者の反発を招きました。ナーセロッディーン・シャー自身もアミール・キャビールの進める改革を快く思わず、宰相の職を解任し、彼をカーシャーンに追放しました。ロシア大使はアミール・キャビールにロシアへの亡命を勧めましたが、彼はこれを拒否したと伝えられています。1852年、シャーの命令により、カーシャーンのフィン庭園の浴室で暗殺されました。

遺産

アミール・キャビールの名前は、テヘランにあるアミール・キャビール工科大学にその名を残しています。

参考文献

* 宮田律『物語 イランの歴史』（中公新書、2002年）

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