アミーン・フサイニー

ハーッジ・ムハンマド・アミーン・アル＝フサイニー（1895年-1974年）は、パレスチナを代表するアラブ人指導者であり、汎アラブ主義運動の中心人物でした。エルサレムの有力なフサイニー家出身で、エルサレム大ムフティー、最高ムスリム評議会議長、全パレスチナ政府大統領、パレスチナ民族評議会議長などの要職を歴任しました。

第一次世界大戦中はオスマン帝国軍に所属していましたが、戦後、大シリア主義運動に積極的に関与し、シリア王ファイサル1世の側近として活動しました。しかし、サイクス・ピコ協定による中東の英仏委任統治下の成立と、パレスチナへのユダヤ人入植の進展は、彼の政治的立場を大きく変えました。彼は、パレスチナのアラブ人を扇動し、ユダヤ人入植者に対する暴力行為を繰り返し起こしました。

1920年のネビ・ムーサ祭でのユダヤ人襲撃事件や、1921年、1929年のユダヤ人虐殺事件など、彼の扇動による暴力は多くの犠牲者を出しました。これらの事件は、パレスチナにおけるアラブ人とユダヤ人の対立を激化させ、後に続く紛争の大きな要因となりました。イギリス当局はフサイニーの活動を危険視し、彼を何度も逮捕・追放しました。

1936年には、3年にわたるパレスチナ・アラブの大蜂起を主導し、イギリス支配に対する抵抗を組織しました。蜂起の失敗後、彼はベイルートを経てイラクに逃亡しました。イラクでの親枢軸国のクーデターに際しては、ラシード・アリー・ガイラーニー政権を支援しましたが、イギリス軍の介入によりイランへ亡命。その後、ドイツに亡命し、ヒトラーと会見、ユダヤ人の殲滅を要求したとされています。この会見の真偽については諸説ありますが、彼はナチス・ドイツからアラブ民族主義運動への支援を取り付け、反ユダヤ主義宣伝放送を続けました。

第二次世界大戦後、彼はイギリス軍に逮捕されましたが脱獄し、カイロ、レバノンを経てベイルートに隠棲しました。1948年の第一次中東戦争後、ガザに設置された全パレスチナ政府の大統領となりましたが、短期間で崩壊しました。

フサイニーは、パレスチナのアラブ民族運動において重要な役割を果たしましたが、その方法は極めて暴力的なものでした。ユダヤ人に対する憎悪の煽動と暴力行為は、パレスチナ問題を複雑化させ、イスラエル建国後も長く続く中東紛争の根源の一つとなりました。

イスラエル側からは、ホロコーストの責任をフサイニーに帰す主張もありますが、これは多くの歴史家によって否定されています。彼の行動は、パレスチナ・アラブ人社会内部の複雑な政治的、社会的要因の結果であると解釈する視点はあります。しかし、彼がナチス・ドイツと協力し、ユダヤ人迫害を助長したことは、歴史的事実として無視できない重大な問題です。

日本との関わりとしては、1934年に北田正元アレキサンドリア総領事と会見、サウジアラビアとイエメンとの国交樹立に向けた仲介役を務めたことが知られています。これは、第二次世界大戦前、日本が中東地域への影響力拡大を図っていたことを示唆しています。フサイニーの生涯と活動は、パレスチナ問題、アラブ民族主義、ナチズム、そして第二次世界大戦という複数の歴史的文脈を理解する上で重要な鍵となる人物像です。

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