アムニージアック

レディオヘッド『アムニージアック』：記憶と音楽の迷宮

『アムニージアック』は、イギリスのロックバンド、レディオヘッドが2001年に発表した5枚目のアルバムです。前作『Kid A』と同時期のセッションで生まれた楽曲群であり、その音楽性は『Kid A』の実験性を引き継ぎつつも、より有機的な楽器の使用や、ジャズやブルースといった要素を取り入れた、奥深い作品となっています。

制作背景と音楽性

1999年の元旦からパリで始まったセッションでレコーディングされた本作は、『Kid A』と密接な関係にあります。発表当時、メディアからは「Kid B」とも揶揄されましたが、メンバーは「『OK Computer』以前の音楽性への回帰」を示唆していました。しかし、実際にはエレクトロニカや20世紀の現代音楽との親和性が強く、前作同様に実験的なサウンドが展開されています。

『Kid A』がワープ・レコード系のエレクトロニカの影響が強いアンビエントな作風だったのに対し、『アムニージアック』ではパーカッションやピアノなどの有機的な楽器が多用され、ヴォーカルのエフェクトも歌詞が聴き取れる程度に調整されています。これにより、ジャズやブルースを連想させるノスタルジックな雰囲気が醸し出されています。タイトル「Amnesiac」は「記憶喪失者」を意味し、アルバム全体を覆うテーマとなっています。

収録曲について

アルバムには、多様な楽曲が収録されています。

Packt Like Sardines in a Crushd Tin Box: サンプリングサウンドとエレクトロニカが融合したナンバー。ライブではトム・ヨークのタンバリンによって電子音が再現され、ノイジーなギターが強調されたアレンジとなります。
Pyramid Song: 印象的なピアノの旋律が美しい楽曲。歌詞は死後の世界を連想させ、独特の雰囲気を醸し出しています。
Pulk/Pull Revolving Doors: 電子ノイズが反復される実験的なナンバー。サンプリングヴォイスが挿入され、タイトルから連想されるイメージを喚起させます。
You and Whose Army?: キーボードを中心としたバラード。後半にかけてコントラバスが使用され、壮大な盛り上がりを見せます。歌詞は、当時のイギリス首相トニー・ブレアに対する批判とも解釈されています。
I Might Be Wrong: グリーンウッド兄弟による複合リフと電子音が絡み合う楽曲。ライブではテンポが上がり、アルペジオ部分へのなだれ込むようなアレンジが特徴です。
Knives Out: ザ・スミスを彷彿とさせるギターロック。不安定なコード進行と、男女関係とカニバリズムをテーマにした歌詞が、独特の陰鬱な雰囲気を生み出しています。
Morning Bell/Amnesiac: 4thアルバム『Kid A』収録の同曲とは異なるアレンジ。テンポを下げ、ドラムを取り払うことで、より内省的な印象を与えます。
Dollars and Cents: パーカッションとストリングスが彩る楽曲。元々は非常に長いアウトロがありましたが、最終的にカットされました。
Hunting Bears: リヴァーヴをかけられたギターが中心のインストナンバー。
Like Spinning Plates: アナログ・シンセサイザーのサウンドが特徴的な楽曲。次作『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』に収録された「I Will. (No Man's Land.)」の逆再生を元にメロディーが作られています。ライブではピアノの弾き語りとして演奏されます。
* Life in a Glasshouse: ビッグバンドをバックに歌われるジャズヴォーカルのようなナンバー。タブロイド記者と、毅然と対応する俳優夫人の姿に触発されて生まれた曲です。

まとめ

『アムニージアック』は、レディオヘッドの実験精神と音楽的な探求が結実した、奥深い作品です。記憶、喪失、現代社会への批判など、様々なテーマが織り込まれており、聴くたびに新たな発見があるでしょう。前作『Kid A』と合わせて聴くことで、レディオヘッドの音楽性の幅広さをより深く理解することができます。

『ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500』では320位にランクインしています。

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