アメリカオシ

アメリカオシ

北米大陸を起源とするカモの仲間で、カモ目カモ科に属します。学名を Aix sponsa といい、東アジアに分布するオシドリと同じオシドリ属に分類されます。その名の通り、アジアのオシドリと近縁であり、特にオスの色彩豊かな姿がよく知られているため、「アメリカオシドリ」とも呼ばれることがあります。

形態

成鳥の全長はおよそ45センチメートルほどです。オス成鳥は、頭部が光沢のある濃い緑色で、後頭部には特徴的な冠羽が垂れ下がります。顔には白い帯状の模様が入り、喉元から目の前方、そして後頭部から目に向かってそれぞれ白い線が見られます。目の周りは赤いアイリングで縁取られ、くちばしは赤地に黄色い縁取りがあります。胸は栗茶色、背は青緑色、翼は淡い褐色や青緑色で、これらの異なる色彩の間を白い帯が区切るように入っています。メスは全体的に控えめな色合いで、頭部から背中にかけては青灰色、体側は灰褐色と白が混じったまだら模様です。メスにも白いアイリングがあり、そこから後方へ白い線が伸びています。オス、メスともに腹部は白色で、脚は黄色をしています。

生態

繁殖期ではない時期は、比較開けた湿地や湖沼で観察されることが多いですが、繁殖期に入ると、周囲を森林に囲まれた河川や湖などの水辺環境へと移動します。主な食物は水草や植物の種子などです。繁殖の際には、オシドリと同じく、水辺近くの木の洞に巣を作る習性があります。人間の設置した巣箱も積極的に利用することが知られています。メスは一度に9個から14個の卵を産みます。巣箱が互いに近接して設置されている場合、複数のメスが一つの巣箱に産卵する、いわゆる「托卵」が見られることがあります。過去には、一つの巣箱に40個もの卵が産みつけられた例も記録されていますが、このような過密な状態では、残念ながら全ての卵が正常に発生し孵化するわけではありません。抱卵はメス親が単独で行い、およそ1ヶ月で雛が孵化します。孵化したばかりの雛は、すぐにメス親に導かれて巣穴から飛び出し、地上へ降りて水辺へと歩いて向かいます。雛の世話もメスのみが行い、雛は約40日程度で飛べるようになり巣立ちします。

分布

カナダ南部からアメリカ合衆国を経てメキシコにかけての北米中部に自然分布しています。ただし、その分布域は、ほぼロッキー山脈を境にして東西に分断される傾向があります。分布域の北部で繁殖する個体は、冬になるとより暖かい南部地域へ渡りを行いますが、分布域の南部に定着している集団の中には、季節的な渡りをしないものもいます。本来の生息地ではありませんが、ヨーロッパや日本などでアメリカオシが記録されることがありますが、これらの個体は、飼育されていたものが逃げ出したり、人為的に放されたりして野生化したものがほとんどです。

保護活動

アメリカオシのオスが持つ鮮やかな羽毛は非常に美しいため、古くから羽飾りや釣りの毛針などに利用され、人々に珍重されてきました。そのため、過去には狩猟の対象となり、乱獲が行われていました。さらに、繁殖場所である森林の伐採や、越冬地である湖沼の開発による生息地の破壊が進み、20世紀初頭には絶滅寸前の危機に瀕していました。しかし、その後の狩猟に関する法律の改正による狩猟制限や、繁殖場所を提供するための巣箱の設置など、積極的な保護活動が展開されました。その結果、20世紀後半には個体数が劇的に回復しました。特に、元々木の洞を利用して営巣していたため、人工的に設置された巣箱が繁殖成功率の向上に大きく貢献したことが、回復を後押ししたと考えられています。現在では、かつてのような絶滅の危機からは脱し、比較的安定した個体数が見られるようになっています。

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