アメリカ海軍EC-121機撃墜事件

アメリカ海軍EC-121機撃墜事件

1969年4月15日、日本海においてアメリカ海軍の電子偵察機EC-121が北朝鮮によって撃墜された事件は、冷戦下の緊張を象徴する出来事として知られています。

事件の概要

飛行の目的

事件当日、厚木海軍飛行場を飛び立ったEC-121M ウォーニングスター（コールサイン：ディープ・シー129）には、8名の士官と23名の下士官・兵が搭乗していました。その任務は、ソ朝国境に近い日本海上の「ムス・ポイント」と呼ばれる地点周辺で、ソ連と北朝鮮の間の電波情報を収集すること、すなわち諜報活動でした。

この任務は、表向きはアメリカ太平洋軍第7艦隊の指揮下でしたが、実際にはNSA（アメリカ国家安全保障局）が主導していました。EC-121は、北東方向をソ連に向けて、120海里（約222km）の楕円状の周回コースを飛行しながら、電波傍受を行っていました。

撃墜

この種の偵察活動は2年間続けられており、北朝鮮の海岸から50海里（約90km）以内に接近することは禁じられていました。しかし、12時34分（現地時間）、在韓米軍のレーダーが、北朝鮮軍のMiG-21戦闘機2機がディープ・シー129を追跡し、離陸したことを探知しました。

ディープ・シー129は13時に通常通りの活動報告を送信しましたが、その直後、MiG-21の接近を受けて作戦中止が指示されました。そして13時47分、MiG-21を探知してからわずか2分後、ディープ・シー129はレーダーから姿を消しました。

EC-121は北朝鮮の清津から90海里（約167km）沖の日本海（北緯41度28分00秒 東経131度35分00秒）に墜落し、搭乗していた31名全員が死亡しました。

捜索

NSAは、ディープ・シー129の消失を14時20分頃に、撃墜された事実を15時44分にはニクソン大統領を含む国家上層部に報告しました。捜索活動には、アメリカ空軍と海軍の航空機が最大26機投入され、駆逐艦「ヘンリー・W・タッカー」とミサイル巡洋艦「デイル」が佐世保基地から出港しました。

翌朝9時30分、機体の残骸が発見され、4月17日にはヘンリー・W・タッカーが2名の遺体を回収しました。この海域にはソ連の艦艇も展開しており、米ソ間の緊張が高まりました。しかし、残りの29名の遺体は発見されませんでした。

報復せず

ニクソン大統領は当初、戦術核兵器による北朝鮮への報復攻撃を命じましたが、当時酩酊状態であったため、キッシンジャー大統領補佐官が「大統領が酔いから醒めるまで待ってほしい」と進言し、撤回されました。その後、アメリカは北朝鮮の軍事力によって情報収集活動が妨げられないことを示すため、1週間も経たないうちに偵察飛行を再開しました。

その後

北朝鮮は1971年4月、「反帝・反米闘争」と題するプロパガンダ切手を発行し、その中にEC-121の残骸を描きました。現在もアメリカ軍はRC-135を用いて北朝鮮に対する諜報活動を継続しており、2006年には北朝鮮当局がアメリカのスパイ活動を非難するとともに、「アメリカは1960年代のEC-121の哀れな運命を忘れない方がよい」と警告を発しました。

この事件は、冷戦時代における米朝間の緊張関係、情報戦の激しさを示す出来事として、歴史に刻まれています。

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