アモコ・カディス

アモコ・カディス号と大規模な原油流出事故

1978年3月、世界はフランス北西部のブルターニュ地方沖で発生した大規模な海洋汚染事故に衝撃を受けました。その原因となったのは、大型原油タンカー『アモコ・カディス』の座礁事故です。この事故は、海洋環境と沿岸地域社会に壊滅的な影響を与え、海洋環境保護の重要性を改めて世界に認識させる契機となりました。

アモコ・カディスの概要

アモコ・カディス号は、1974年にスペインのカディス造船所で建造された巨大な原油タンカーでした。アメリカの大手石油会社アモコが所有し、リベリア船籍で運航されていました。全長約318メートル、幅約50メートルという巨大な船体は、一度に大量の原油を輸送することが可能でした。

事故の発生と展開

運命の日は1978年3月16日でした。ペルシャ湾からロッテルダムへ向けて22万トンもの原油を満載したアモコ・カディス号は、ブルターニュ半島沖約140キロメートル地点で操舵装置の故障に見舞われました。荒天の中、曳船による曳航を試みましたが、強風と高波により牽引ワイヤが断裂。制御不能となったタンカーは、ブレスト北方のポルサル沖約5キロメートル地点の岩礁に衝突、座礁してしまいました。

激しい衝撃で船体は真っ二つに折れ曲がり、積載していた原油が大量に海中に流出を開始しました。事故発生から数日間に渡り、原油は海面に広がり続け、ブルターニュ半島沿岸部を深刻な油汚染の危機に陥れました。最終的に、積載されていた原油約17万トンが流出し、沿岸部の125マイルに渡る広大な範囲が油で汚染されました。事故から数日後には船体は完全に沈没し、悲劇は幕を閉じました。

甚大な被害と影響

この事故は、ブルターニュ地方の漁業に壊滅的な打撃を与えました。豊かな漁場が原油で汚染され、漁獲量は激減。多くの漁民は生活の糧を失い、経済的な苦境に陥りました。また、沿岸部の生態系にも深刻な被害が及び、多くの海洋生物が死滅しました。美しい海岸線も油で覆われ、観光業も大きな打撃を受けました。

アモコ・カディス号の事故は、世界中に衝撃を与え、海洋環境保護の重要性を訴える大きな契機となりました。この事故を教訓に、海洋タンカーの安全管理基準の強化や、油流出事故対策の改善が進められましたが、いまだに海洋汚染という課題は残されています。

参考文献

Joachim W. Pein著　『Giganten der Meere　Die Grossten Tankschiffe der Welt』　Koehler 2011年 ISBN 978-3-7822-1006-5
海人社『世界の艦船』1978年6月号 No.255
国土交通省 【主要なタンカー油流出事故について】 平成12年7月
Auke Visser´s International Super Tankers　「Amoco Cadiz」

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