アモツ・ザハヴィ

アモツ・ザハヴィ

イスラエルの著名な進化生物学者、アモツ・ザハヴィ（Amotz Zahavi、1928年1月1日 - 2017年5月12日）は、テルアビブ大学動物学部で長年研究・教育に携わり、名誉教授の称号を得ました。また、イスラエルにおける環境保護活動の初期を担ったイスラエル環境保護協会の設立メンバーの一員でもあります。彼の研究は多岐にわたりましたが、特に中東に生息するアラビアヤブチメドリの生態観察に深い関心を寄せました。

ザハヴィは1970年にテルアビブ大学で博士号を取得しました。彼の研究者としてのキャリアにおいて最も広く知られている貢献は、「ハンディキャップ理論」として体系化された独創的な進化理論です。

ハンディキャップ理論

1975年に提唱されたハンディキャップ理論は、動物が生存や繁殖にとって明らかに不利に見える、あるいは自身を危険に晒すような行動や形態、生理的な仕組みを進化させてきた理由を説明しようとするものです。一見すると、これは自然選択の原則に反しているように見えます。例えば、クジャクの長く重い尾羽や、ガゼルが捕食者を目の前にして高くジャンプする行動（プロンキング）などが挙げられます。

ザハヴィは、これらの「ハンディキャップ」となる特徴や行動こそが、個体の質の高さや強さを正直に示す信頼できる信号として機能すると主張しました。つまり、弱い個体や状態の悪い個体は、そうしたコストの高い信号を示すことができないため、その信号（ハンディキャップ）を持つこと自体が、それを持つ個体が優秀であることの証となるのです。この理論は、当初は配偶者選びにおける性選択の文脈で最も注目されましたが、後に動物間のあらゆるコミュニケーションにおける信号の信頼性を保証する一般的なメカニズムとして、より広い範囲に応用されるようになりました。動物が発する信号が偽りでないことを示すためには、その信号が高いコスト（ハンディキャップ）を伴う必要がある、というのがこの理論の核心です。

この画期的な貢献により、ザハヴィは1980年にイスラエル賞を受賞しました。

共同研究者としての妻 アヴィシャグ・ザハヴィ

アモツ・ザハヴィの私生活において、そして研究キャリアにおいても重要な存在であったのが、妻のアヴィシャグ・カドマン＝ザハヴィ氏（Avishag Kadman-Zahavi、1922年 - ）です。彼女自身も優れた科学者であり、イスラエルのヴォルカニ農業試験センターで植物生理学の名誉教授を務めました。

二人の出会いは1954年、エルサレムのヘブライ大学で行われていたフィールドワークの研究中にさかのぼります。結婚後、アヴィシャグ氏は自身の専門である植物生理学（特に植物の成長における光の影響、光周性、フィトクロム、光形態形成など）の研究を続ける傍ら、夫アモツの研究にも深く関わりました。特に、夫妻の代表的な共同研究となったのが、前述のハンディキャップ理論、そして自然選択説への社会生物学的なアプローチに関する研究です。

アヴィシャグ氏は、夫の理論構築において重要な役割を果たしました。彼女はしばしば「悪魔の代理人」（Devil's Advocate）として、アモツのアイデアに対して批判的な視点から徹底的な議論を挑み、それによって理論をさらに洗練させ、強固なものにしていきました。また、夫妻は共にアラビアヤブチメドリの長期にわたる観察研究を行い、ハンディキャップ理論の根拠となる多くの行動学的証拠を収集しました。アヴィシャグ氏はヴォルカニセンター退職後も、Yair center for agricultural researchで研究活動を続けています。

アモツとアヴィシャグの間には二人の娘が生まれ、さらに二人の孫にも恵まれました。

著書

夫妻は共著で、自身の理論をまとめた書籍を出版しています。

『生物進化とハンディキャップ原理』（白揚社、2001年）
原著: The handicap principle: a missing piece of Darwin's puzzle. (Oxford University Press, 1997)

アモツ・ザハヴィは、生涯にわたり進化生物学の研究に情熱を注ぎ、特に動物行動学に革新的な視点をもたらしました。2017年5月12日、89歳でテルアビブにて逝去しましたが、彼の提唱したハンディキャップ理論は、今日でも生物学の様々な分野で議論され、応用されています。

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