アラバマ物語

『アラバマ物語』（原題: To Kill a Mockingbird）は、1962年に公開されたアメリカのドラマ映画です。人種差別が色濃く残る1930年代のアメリカ南部を舞台に、弁護士アティカス・フィンチが白人女性への性的暴行容疑で逮捕された黒人青年を弁護する姿を描いています。物語は、成長した娘スカウトが子供時代の出来事を回想する形式で語られ、法廷ドラマとしての側面だけでなく、子供の視点から見た大人の世界や、純粋な好奇心、そしてノスタルジーが描かれています。

概要

この映画は、1960年に発表されたハーパー・リーの同名小説が原作です。リーの自伝的小説『アラバマ物語』は、1961年にピューリッツァー賞を受賞し、翌年には全米で900万部を売り上げる大ベストセラーとなりました。映画プロデューサーのアラン・J・パクラは、この小説に深く感銘を受け、かつて仕事をしたことのあるロバート・マリガン監督に映画化を依頼しました。2人は小説がピューリッツァー賞を受賞する直前に映画化権を獲得しました。

物語の舞台はアメリカ南部ですが、実際の撮影はハリウッドで行われました。美術を担当したアレクサンダー・ゴリツィンとヘンリー・バムステッドは、22万5000ドルをかけてアラバマ州の田舎町のセットをハリウッドに作り上げました。原作者のリーは、そのセットが故郷にあまりにも似ていたことに驚いたと伝えられています。映画は1962年 12月25日に公開され、大ヒットを記録しました。同年度のアカデミー賞では、作品賞を含む8部門にノミネートされ、主演男優賞、脚色賞、美術賞（白黒部門）の3部門を受賞しました。なお、著作権表記の欠落により、現在はパブリックドメインとなっています。

あらすじ

1930年代、アラバマ州の架空の田舎町メイカムを舞台に、フィンチ家の兄妹、スカウトとジェムの3年間が描かれています。兄妹は、近所のブー・ラドリーの様子を探ったり、夏には親戚のディルも加わって遊んだりする、無邪気な子供たちです。ブーは、姿を見た人がいないため、様々な噂が飛び交っています。父親のアティカスは、妻に先立たれた後、弁護士として町の人々から信頼されており、子供たちは彼をファーストネームで呼んでいます。

ある日、アティカスは白人女性への性的暴行事件の容疑者である黒人青年トム・ロビンソンの弁護を依頼されます。当時、人種差別が根強かった南部では、黒人の弁護を引き受けることは非難されることでした。スカウトは、父が黒人を弁護することに反発する同級生と喧嘩もしました。裁判の夜には、被害者側の群衆がロビンソンに暴行しようとしますが、アティカスはそれを阻止します。スカウトたちは、父を助けようと駆けつけ、スカウトが群衆の中にいたカニンガムに話しかけたことがきっかけで、群衆は引き上げます。

裁判当日、アティカスは、陪審員がすべて白人という不利な状況の中、ロビンソンの弁護を始めます。彼は、被害者であるメイエラの父が左利きであること、トムの左腕が不自由であることを証拠として示し、真犯人はメイエラの父である可能性を示唆します。しかし、陪審員はロビンソンを有罪としました。アティカスはトムに上級審を促しますが、トムは護送中に逃走を試みて射殺されてしまいます。

その後、ハロウィーンの夜、スカウトとジェムはボブ・ユーエルに襲撃されますが、ブー・ラドリーが現れて彼らを助け、ユーエルは死亡します。保安官は、ブーが子供たちを救った英雄であることを理解し、内気な彼を人前にさらさないために、ユーエルが自分で転んで死んだことにします。スカウトは、父から教えられた「ものまね鳥を殺すこと」は罪だということを思い出し、ブーの立場になって物事を考えます。

登場人物

アティカス・フィンチ（グレゴリー・ペック）：正義感あふれる弁護士。
スカウト（メアリー・バダム）：アティカスの娘。物語の語り手で、原作者のハーパー・リーがモデル。
ジェム（フィリップ・アルフォード）：スカウトの兄。
ディル・ハリス（ジョン・メグナ）：フィンチ兄妹の友人。トルーマン・カポーティがモデル。
ヘック・テイト（フランク・オーヴァートン）：町の保安官。
トム・ロビンソン（ブロック・ピーターズ）：白人女性への暴行容疑で起訴された黒人青年。
ブー・ラドリー（ロバート・デュヴァル）：フィンチ家の隣人。謎めいた人物。

キャスト

グレゴリー・ペック
メアリー・バダム
フィリップ・アルフォード
ロバート・デュヴァル

音楽

エルマー・バーンスタイン作曲のサウンドトラック

主な受賞

第35回アカデミー賞：主演男優賞（グレゴリー・ペック）、脚色賞、美術賞（白黒部門）
第20回ゴールデングローブ賞：主演男優賞（ドラマ部門）（グレゴリー・ペック）、作曲賞
第16回カンヌ国際映画祭：ゲイリー・クーパー賞（ロバート・マリガン）

評価

アティカス・フィンチは、アメリカの良心を体現したキャラクターとして非常に人気があり、アメリカン・フィルム・インスティチュートが選んだアメリカ映画100年のヒーローと悪役ベスト100では、ヒーロー部門第1位に輝きました。また、アメリカ国立フィルム登録簿にも登録され、アメリカン・フィルム・インスティチュートが選んだ映画ベスト100にもランクインしています。2008年には最も偉大な法廷ドラマ第1位にも選ばれました。

トリビア

撮影初日、原作者のハーパー・リーはグレゴリー・ペックの太鼓腹を見て、涙を流したと伝えられています。リーは、ペックに父親の形見の時計をプレゼントし、ペックは法廷の場面でその時計を身につけていました。
* スカウト役のメアリー・バダムは、共演者の台詞を真似する癖があり、撮影に苦労した場面もあったそうです。

『アラバマ物語』は、人種差別や偏見、正義とは何かを深く考えさせる、普遍的なテーマを描いた名作です。子供たちの純粋な視点を通して、大人たちの世界の矛盾や葛藤を描き出し、観る者の心に深く響く作品と言えるでしょう。

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