アリエタ医師のいる自画像

アリエタ医師のいる自画像

概要

『アリエタ医師のいる自画像』（Autorretrato con el Dr. Arrieta）は、スペインのロマン主義の巨匠フランシスコ・デ・ゴヤが1820年に制作した自肖像画です。この油彩作品は、現在アメリカのミネアポリス美術館に所蔵されています。多くの研究者により、作品には宗教的なテーマが含まれていると考察されており、さらにゴヤの創作活動全体における重要な文脈としても受け止められています。

制作背景

1792年、ゴヤは病に倒れました。この病は、眩暈や衰弱に始まり、聴力を完全に失う結果を招きました。様々な診断が下され、その中には梅毒や鉛中毒といったものがありました。1819年には再度の重病を経験し、当時の医師エウヘニオ・ガルシア・アリエタによる治療を受ける中で、ゴヤはまさに死の淵から復活したとされています。この自画像は、彼の感謝の気持ちを示すために描かれたものであり、作品にはその理由が碑文として刻まれています。

ゴヤがこの作品を描く際、彼はベッドに腰掛け、痛みと苦しみに満ちた表情を浮かべています。彼の衰弱した状態が、薄暗い色調や肌の青白さによって強調されています。ゴヤは白いナイトシャツと灰色がかったガウンを着用し、彼の手はシーツをつかむようにして命に執着している様子を示しています。背後ではアリエタ医師が彼を支えており、優しく薬を勧めています。医師は希望を象徴する緑色のジャケットを着ており、対照的にゴヤの姿は病気による苦しみを表現しています。

作品の構成

この自画像は、対比によって構成されています。前景にはアリエタ医師とゴヤが暖かい雰囲気を醸し出しているのに対し、背景には影のような3人の人物が描かれ、より陰鬱な雰囲気を形成しています。アリエタ医師の視線は集中力と意志の強さを示し、健康を連想させる一方、閉じられたゴヤの瞳は意識の欠如を象徴しているように見えます。

解釈

この作品には世俗的な文脈と宗教的なテーマが交差しています。研究者たちは、自画像に添えられた碑文を通じて、神の介入に感謝する奉納のシーンを彷彿とさせると同時に、ゴヤがこの肖像画を宗教的ではなく医師への感謝の意を表する形で表現した点を注目しています。彼の回復を神の御業ではなく、科学の力によって成し遂げたと位置づけ、アリエタ医師を聖人のように讃える意図が隠されているのかもしれません。

また、背景の人物像も多様な解釈を呼び起こしています。一部には宗教的な象徴であるとの意見があり、司祭や臨終を見守る者といった見解もありますが、ゴヤの後に続く《黒い絵》との関連性を示唆する意見も少なくありません。これらは、自画像を通じて彼の病気体験を垣間見る視点を提供します。

評価と来歴

『アリエタ医師のいる自画像』は、ゴヤの肖像画における変遷の象徴であり、特に彼の病前後の視覚的な変化をも浮き彫りにしています。作品は、衰弱と希望、病と回復を描写することで、対照的なテーマの相互作用を表現しており、他の作品との関係性を考慮に入れることで、ゴヤの芸術の変遷を探求する手助けになります。

この自画像は1820年に完成した後、ゴヤの死後は様々な個人コレクションに移り変わり、1952年にはミネアポリス美術館に収蔵されたとされています。ゴヤの作品は、彼の独自の視点と表現力を通じて、歴史に大きな影響を与えたのです。

もう一度検索