アリエル1号

アリエル1号

アリエル1号（Ariel 1）は、1962年に宇宙へと打ち上げられた、英国にとって歴史的な意義を持つ人工衛星です。英国が自国の衛星を軌道上に投入した最初の事例であり、これにより英国はソビエト連邦、そしてアメリカ合衆国に続き、世界で3番目に人工衛星の運用を達成した国となりました。この衛星は、その後の英国の宇宙科学プログラムの第一歩となる「アリエル計画」の記念すべき第1号機でもあります。

計画の背景と開発

アリエル1号の開発は、1959年から1960年にかけて行われた、英国と米国の間での政治的な討議と合意に基づいています。計画の発端は、1959年末に開催された宇宙空間研究委員会（COSPAR）の会合に遡ります。この会合で、米国が他国の科学衛星の開発と打ち上げを支援するという申し出を行ったのを受け、英国の科学工学研究協議会（Science and Engineering Research Council）は、この機会を捉えて米国航空宇宙局（NASA）に対し、アリエル1号の開発プロジェクトを提案しました。翌1960年初頭までには、計画全体の期間や、英米それぞれの組織が担うべき具体的な役割分担に関する詳細な取り決めが固まりました。

衛星本体の製造は、米国のNASAに属するゴダード宇宙飛行センター（Goddard Space Flight Center）が担当しました。一方、打ち上げ後の衛星の運用管理や、搭載された観測装置から得られた実験データの解析は、英国側の科学工学研究協議会が責任を負いました。

科学ミッションと搭載装置

アリエル1号には、合計6つの科学観測装置が搭載されていました。これらの装置の大部分は、太陽活動が地球の電離層内部で引き起こす様々な変化との関係性を詳細に研究することを目的としていました。太陽からの放射線や粒子が電離層に与える影響を観測することで、地球の上層大気や宇宙環境に関する貴重なデータを得ることが期待されました。また、電離層研究に関連する装置の他に、宇宙線を観測するための装置も搭載されており、より広範な宇宙環境の理解に貢献する計画でした。

打ち上げとその後の軌道上活動

アリエル1号は、1962年4月26日、米国フロリダ州にあるケープカナベラル空軍基地から、ソー・デルタ（Thor-Delta）ロケットを使用して無事に宇宙へと打ち上げられました。軌道投入後、衛星は基本的に設計通りの機能を発揮し、観測ミッションを開始しました。搭載されていた科学装置の一部には初期段階で不具合が見られましたが、それ以外の機能は概ね正常に作動し、順調にデータ収集を進めていました。

予期せぬ終焉

アリエル1号の軌道上での活動は、予期せぬ出来事によって突然終わりを迎えます。1962年7月9日、米国が高高度で行った核実験「スターフィッシュ・プライム」（Starfish Prime）が実施されました。この核爆発によって発生した高エネルギー粒子や放射線が、地球軌道上の宇宙環境に大きな影響を与えました。アリエル1号もこの影響を強く受け、搭載機器が損傷し、正常な作動が不可能となりました。結果として、打ち上げからわずか数ヶ月後のこの時点で、アリエル1号はその運用を停止せざるを得なくなりました。短期間の運用ではありましたが、アリエル1号は英国の宇宙開発の歴史において、そして国際協力による宇宙科学研究の初期段階において、極めて重要な役割を果たした衛星です。

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