アリ植物

アリ植物：アリとの共生が生み出す驚きの植物

アリ植物とは、アリと特別な共生関係を築き、植物体の上にアリを常時生活させる構造を持つ植物のことです。これらの植物は、世界各地の熱帯地域に分布しており、その生態は非常に興味深いものです。

アリとの相利共生

アリ植物は、アリに住処と食料を提供し、アリは植物を外敵から守るという、相互に利益をもたらす関係を築いています。これは相利共生の一例と言えます。

防衛共生型: アリが植物に近づく小動物を攻撃したり、周辺の植物を噛み切ったりすることで、植物を守ります。
栄養共生型: アリの排泄物が植物の栄養源となり、特に貧栄養な環境で生育する植物にとって重要な役割を果たします。

多様なアリ植物

アリ植物は特定の分類群に属するものではなく、様々な植物群に点在しています。その数は世界で約500種にのぼり、それぞれ独自の方法でアリとの共生関係を築いています。

巣の形態: アリが住み込む場所は、葉や托葉が巻き込んで部屋を作るもの、茎や根茎内部に空洞を形成するものなど、多様な形があります。
栄養供給: 葉や茎に蜜腺を持ち、蜜を分泌したり、タンパク質や糖分の多い特別な構造（ミュラー体、Beltian bodyなど）を作ってアリに食料を提供したりします。

アリ植物の例

セクロピア: 茎の内部が空洞になっており、アリが巣として利用します。葉柄基部にある托葉の表面にミュラー体という小粒を作り、アリに食料を提供します。
アリアカシア: 托葉が丸く膨らんで棘となり、内部が空洞になってアリが住み着きます。葉先にBeltian bodyと呼ばれる小粒をつけ、アリに食料を提供します。
アリノスダマ: 茎の基部が大きく膨らんで迷路状の空洞があり、アリが住み着きます。巣内部には栄養を吸収するための構造が発達しています。
アケビカズラ: 葉に二型があり、大きい方の葉が壷状になっており、その内部がアリの隠れ場として利用されます。壷状の葉の中に植物自身の根が入り込み、栄養を吸収します。

アリの行動

アリ植物に住み着くアリは、植物を守るために様々な行動を取ります。

外敵からの防衛: 植物にやってくる小動物や哺乳類を攻撃し、捕食者を退けます。
競争者の排除: 植物に巻き付く蔓を切り、周辺の植物の葉を食いちぎることで、植物の競争者を排除します。

より複雑な共生関係

アリ植物の中には、アリとカイガラムシ、植物の三者が関わる複雑な共生関係を築いているものもあります。例えば、オオバギ属の植物では、アリがカイガラムシを巣穴に持ち込んで繁殖させ、植物はアリのために栄養供給物質を作ります。また、このアリの攻撃に抵抗できるように適応したシジミチョウ科の幼虫も存在します。

分布

アリ植物は熱帯地域に広く分布していますが、温帯ではほとんど見られません。これは、アリにとって植物体の内部での越冬が困難なためと考えられています。

まとめ

アリ植物は、アリとの共生を通じて、独自の進化を遂げてきた植物です。その多様な形態や生態は、自然界の不思議さを教えてくれます。アリ植物の研究は、共生関係の進化や生態系の複雑さを理解する上で、重要な役割を担っています。

参考文献
『朝日百科　植物の世界』2・3・5・12・13、(1997)、朝日新聞社
デービッド・アッテンボロー、門田裕一訳、『植物の私生活』、1998、山と渓谷社
石井龍一他、2009、『植物の百科事典』、朝倉書店
R. E. Holttum,1969,Plant Life in MALAYA,LONGMAN GROUP LIMITED,London

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