アルトトロンボーン

アルトトロンボーン：その歴史と特徴

アルトトロンボーンは、トロンボーン属の一種で、ソプラノトロンボーンとテナートロンボーンの中間に位置する音域を持つ楽器です。一般的に使われるテナートロンボーンよりもやや小型で、音色も明るく軽快な点が特徴です。オーケストラでの使用が中心ですが、独奏楽器として用いられることもあります。

音域と記譜

アルトトロンボーンは、主に変ホ（E♭）管が用いられます。これはテナートロンボーンよりも完全4度高い音域を持ち、中央ハの13度下のE♭から中央ハの15度上のB♭程度が一般的な音域です。もちろん、演奏技術によってはさらに高い音も出すことが可能です。楽譜は通常、アルト記号で記譜されます。

歴史

バロックから古典派

アルトトロンボーンは、他のトロンボーン属の楽器と同様に、古くから和声楽器として使用されてきました。バロック時代から古典派初期にかけては、協奏曲のソロ楽器としても活躍し、ヴァーゲンザイルやレオポルト・モーツァルトによってアルトトロンボーンのための協奏曲が作曲されています。
モーツァルトの時代にトロンボーンがオーケストラに組み込まれるようになり、当初はアルト、テナー、バスの3種類を1本ずつ使用するのが一般的でした。モーツァルトのオペラや宗教音楽などでは、アルトトロンボーンが指定されたパートを演奏することがあります。

ベートーヴェンからロマン派

ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン、ブラームス、ブルックナーといったロマン派の作曲家たちも、アルト、テナー、バスの3種類のトロンボーンを使用しました。特にベートーヴェンの交響曲第5番やシューマンの交響曲第3番では、アルトトロンボーンのパートが高音域に及ぶため、難易度の高い演奏が求められます。
しかし、次第にアルトトロンボーンは使用される機会が減り、代わりにテナーが用いられることが多くなりました。これは、テナーの方が演奏に慣れている奏者が多かったことや、高音域を必要としない楽曲ではテナーでも演奏が可能だったことなどが理由として挙げられます。フランスでは、ベルリオーズがアルト1本、テナー2本の編成でトロンボーンを使用した例がありますが、これも早い時期にテナー3本に置き換えられました。

近現代

近現代の作曲家では、シェーンベルク、ベルク、ストラヴィンスキー、ブリテンらがアルトトロンボーンを使用しました。しかし、これらの作品はアルトトロンボーンの専門家以外にはあまり知られておらず、古典派やロマン派初期の作品で使われる楽器という印象が強いかもしれません。しかし、ドイツ語圏ではアルトトロンボーンは廃れることなく、時代とともに変化しながら現在まで使われ続けています。

演奏について

アルトトロンボーンは、テナートロンボーンに比べて各ポジションの間隔が狭いため、音程を正確に取るのが難しいとされています。また、マウスピースが小さく、音域が高いことから、アンブシュアのコントロールも異なります。高音域を安定して出しやすいという利点もありますが、テナーで高音が出せない人がアルトに持ち替えても、必ずしも出せるようになるわけではありません。楽器が小さいため、テナートロンボーンよりも少ない息で演奏できます。オーケストラでは、トランペットとの親和性が高い反面、現代の太管テナートロンボーンとは音質的なバランスが取りづらいという面もあります。

アルトトロンボーンが活躍する主な曲

ヴァーゲンザイル：アルトトロンボーン協奏曲
L.モーツァルト：アルトトロンボーン協奏曲
ベートーヴェン：交響曲第5番、交響曲第9番
シューマン：交響曲第3番
* ブラームス：交響曲第2番

アルトトロンボーンは、その独特な音色と歴史的背景から、今もなお多くの音楽家や愛好家から愛されています。

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