アルド・チッコリーニ

アルド・チッコリーニ（Aldo Ciccolini）は、1925年8月15日にイタリアのナポリで生を受け、2015年2月1日にフランスのアニエール＝シュル＝セーヌで生涯を閉じた、イタリア出身でフランスを拠点に活動した傑出したピアニストです。

彼のキャリアは早くから開花しました。16歳という若さでナポリのサン・カルロ劇場でのデビューを果たし、将来を嘱望されます。国際的な飛躍のきっかけとなったのは、1949年にパリで開催されたロン・ティボー国際コンクールでの優勝でした。この成功が、彼をフランスの音楽界へと導くことになります。1969年にはフランス国籍を取得し、完全にフランスを活動の拠点としました。教育者としても貢献し、1970年から1983年にかけて、パリ音楽院で後進の指導にあたり、多くのピアニストを育てました。

チッコリーニは、特にフランス近代音楽の解釈者、そしてその擁護者として国際的に高い評価を得ていました。エリック・サティやクロード・ドビュッシーといった作曲家のピアノ作品全集の録音は特によく知られています。しかし、彼のレパートリーはそれだけに留まりません。シャルル＝ヴァランタン・アルカン、アレクシス・ド・カスティヨン、ジュール・マスネ、デオダ・ド・セヴラックなど、あまり広く知られていない作曲家の秘曲の発掘にも情熱を注ぎ、それらの作品の録音も数多く行いました。これらの活動は、フランス音楽の多様な魅力を世界に伝える上で重要な役割を果たしました。

一方で、彼はフランツ・リストの作品の演奏でも名を馳せました。超絶技巧を要求されるリスト作品におけるチッコリーニの演奏は、その力強さと説得力で聴衆を魅了しました。パテ・マルコーニやEMIといった主要なレコードレーベルに100点を超える録音を残しており、特にモーツァルトやベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は、彼の幅広い音楽性を示すものとして注目されています。

長年にわたるフランスでの活動は高く評価され、1999年12月9日には、フランスでの活動50周年を記念する特別なリサイタルが、パリのシャンゼリゼ劇場で開催されました。また、その録音活動は数々の賞を受賞しました。2002年には、レオシュ・ヤナーチェクのピアノ作品全集（アベイユ・ミュージック）と、シューマンのピアノ作品集（カスカヴェル）で、フランスの権威あるディアパソン・ドール賞を受賞しました。さらに、2006年にはカスカヴェルレーベルより、彼が録音したベートーヴェンのソナタ全集が復刻されるなど、その録音は世代を超えて聴き継がれています。

個性的なエピソードも残されています。若い頃の音楽界では、より速く、より力強い演奏が重視される傾向があり、チッコリーニもまた、その卓越した速弾きで知られていました。特に、1956年2月8日にスイス・ロマンド放送局で録音された、フェレンツ・フリッチャイ指揮によるリストのピアノ協奏曲第2番の演奏は、18分40秒という驚異的な速さで、男性ピアニストによるものとしては世界最速とされる録音記録を残しています。

イタリアに生まれ、フランスを第二の故郷として生涯をピアニスト、そして教育者として捧げたアルド・チッコリーニは、幅広いレパートリーと個性的な解釈で、クラシック音楽界に多大な足跡を残しました。

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