アルド・ファン・アイク

アルド・ファン・アイク：都市と人間の調和を模索した建築家

アルド・ファン・アイク（1918年-1999年）は、20世紀を代表するオランダの建築家、都市計画家、そして建築思想家です。詩人である兄を持つ彼は、ズーテルメールに自身の名前を冠した公園を持つなど、オランダ建築界に多大な影響を与えました。

チームXと革新的な建築思想

1953年、近代建築国際会議（CIAM）の第9回会議で結成されたチームX。その中心メンバーの一人として、ファン・アイクは、アリソン＆ピーター・スミッソン夫妻らと共に、従来の機能主義的なCIAMの枠組みを超えた建築思想を模索しました。雑誌『フォーラム』の編集者としても活躍し、槇文彦らとの交流も知られています。

彼の建築思想は、オッテルロー・サークルやオランダ構造主義とも関連付けられ、ル・コルビュジエらによる機械論的な建築観からの脱却を目指しました。変化や成長を許容するダイナミックな構造を追求し、プエブロ・インディアンの集落に見られるような、基本単位の積み重ねによる有機的な都市構造に大きな関心を寄せました。

代表作：アムステルダムの孤児院「子供の家」

ファン・アイクの代表作として最も有名なのが、1960年に完成したアムステルダムの孤児院「子供の家」です。現在もオフィスとして利用されているこの建物は、DOCOMOMOにも選定されており、彼の建築思想を象徴する作品となっています。その他にも、ナーヘレの小学校、ハーグのカトリック教会、クレラー・ミュラー美術館彫刻パビリオン、そしてアムステルダムの中心部にある「母の家」など、数々の重要な建築物を残しています。

多彩な経歴と教育活動

幼少期をイギリスで過ごした後、スイス連邦工科大学チューリッヒ校を卒業。1944年から建築設計活動を始め、室内改装や展示計画などを手掛けました。アムステルダム市都市開発部での勤務経験（1946年-1950年）を経て、フランスの文化人類学や文化進化論の影響を受け、独特の都市空間へのアプローチを展開。人間の自発性や都市の迷宮性、時間の概念に着目し、都市全体の統一的な計画よりも、部分的な変化の積み重ねによる全体的な発展を重視しました。

アムステルダム市内には、彼の設計による700近くの「スペールプラーツ（子供の遊び場）」があり、集合住宅の中庭や公園の設計にも携わっています。ヘリット・リートフェルトとの共同作業や、エンスヘデのアカデミー・オブ・アート・アンド・インダストリーでの美術史担当、アムステルダム建築アカデミーやデルフト工科大学での教鞭など、教育活動にも精力的に取り組んでいました。1960年には、集落調査のためにアフリカ（ドゴン族の集落）を訪れ、建築における人類学的な視点を深めました。また、ペンシルバニア大学で「子供、都市、アーティスト」というテーマで講演を行っています。

建築雑誌『フォーラム』の編集者としての経験（1959-1963、1967）や、ウルフ賞芸術部門建築賞（1996/1997）、RIBAゴールドメダル（1990）の受賞など、建築界への貢献は計り知れません。彼の建築思想は、現代建築に多大なる影響を与え続けています。

参考文献

朽木順綱：アルド・ファン・アイクの建築思想における「コンフィギュレーション」の構造―論考「コンフィギュレーション理論への歩み」を通して，日本建築学会計画系論文集，第609号，2006年
五十嵐太郎：一九六八年 - パリの五月革命をめぐる思想と建築，pp.149-185, 都市・建築の現在，東京大学出版, 2006年

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