アルノルト・ベックリン

アルノルト・ベックリン（1827年10月16日 - 1901年1月16日）は、19世紀のヨーロッパ美術界において、象徴主義を代表するスイス出身の画家です。

同時代の印象派が戸外での風景描写を追求したのに対し、ベックリンは文学、神話、聖書といった古典的なテーマを基に、想像の世界をキャンバスに表現しました。彼の作品は、写実的な筆致でありながら、神秘的で幻想的な雰囲気を醸し出しており、観る者を深い思索へと誘います。

生涯

ベックリンはスイスのバーゼルで生まれましたが、青年期以降はヨーロッパ各地を転々としました。デュッセルドルフで美術を学んだ後、ローマ、ヴァイマル、ミュンヘン、フィレンツェ、チューリッヒなど様々な都市に滞在し、その作風を深めていきました。晩年はフィレンツェ郊外のフィエーゾレで過ごしました。

特に1874年から1885年のフィレンツェ滞在期は、彼の円熟期であり、代表作である『死の島』をはじめとする重要な作品が数多く制作されました。

作品の特徴

ベックリンの作品は、緻密な写実描写と、画面に漂う神秘的・幻想的な雰囲気が特徴です。その独特な世界観は、20世紀のシュルレアリスム絵画にも大きな影響を与えました。

特に有名な『死の島』は、暗い空の下、墓地のある孤島へ向かう小舟を描いたもので、そのモチーフに魅せられたベックリンは生涯に5点の『死の島』を制作しました（うち現存するのは4点）。それぞれの作品は、同じモチーフを使いながらも、サイズや技法が異なり、バリエーション豊かな表現が試みられています。

『死の島』とその影響

『死の島』は、その神秘的な雰囲気から、ベックリンの代表作として広く知られています。第一次世界大戦後のドイツでは非常に人気があり、一般家庭の多くで複製画が飾られていました。また、ポストカードの題材としても盛んに使用され、この絵に触発されて描かれた作品も存在します。

この作品は、音楽や文学にも影響を与えました。ラフマニノフやレーガーは、この絵に触発された交響詩を作曲し、作家の福永武彦は小説『死の島』のモチーフとしています。福永は、この絵が持つ不気味なイメージを、原爆投下後の広島のイメージに重ね合わせたと言われています。

アドルフ・ヒトラーもベックリンの作品を好み、収集していたことでも知られています。

代表作

『ヴァイオリンを弾く死神のいる自画像』（1872年）
『聖なる森』（1882年）
『波間のたわむれ』（1883年）
『死の島』（1880年から1886年の間に5点が描かれる。現存4点）

バーゼル美術館所蔵（1880年）
ベルリン美術館所蔵（1883年）
ニューヨーク・メトロポリタン美術館所蔵（1880年）
ライプツィヒ造形美術館所蔵（1886年）

『至福の島』（「生の島」とも、1888年）

ギャラリー

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その他

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参考文献

『19世紀ドイツ絵画名作』展（プロイセン文化財団ベルリン国立美術館所蔵）カタログ：兵庫県立近代美術館（1985年）、東京国立近代美術館（1986年）
『アルノルト・ベックリーン』展（バーゼル美術館所蔵作品による）カタログ：国立西洋美術館（1987年）
ベックリーン《死の島》（フランツ・ツェルガー・著、高阪一治・訳、三元社、1998年）

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