アルノ・ババジャニアン

アルノ・ババジャニアン（Arno Babadzhanian）は、20世紀アルメニアを代表する作曲家であり、優れたピアニストでもありました。1921年 1月22日にアルメニアの首都エレバンで生を受け、1983年 11月11日にモスクワでその生涯を終えました。彼の音楽は、故郷アルメニアの豊かな民族的色彩を深く反映していることで広く知られています。

音楽的研鑽

ババジャニアンの音楽の旅は、故郷エレバンで始まりました。彼はエレバン音楽院で基礎を学んだ後、さらなる高みを目指し、1947年にモスクワへ渡ります。モスクワ音楽院では、作曲とピアノ演奏の両分野で専門的な知識と技術を深めました。このモスクワでの学びは、彼の音楽家としての基盤を確固たるものとしました。

アルメニアでの活動と初期の代表作

1950年、ババジャニアンはアルメニアに帰郷します。帰国後は、精力的にピアニストとして演奏活動を行う傍ら、母校であるエレバン音楽院で教鞭を執り、後進の指導にも力を注ぎました。同年には、2台のピアノのために書かれた「アルメニア狂詩曲」を発表し、この作品は瞬く間に彼の初期における代表作の一つとなりました。この作品には、既に彼の特徴である民族的な旋律やリズムが色濃く表れています。

主要作品の展開

ババジャニアンはその後も次々と重要な作品を生み出しました。1952年には室内楽の傑作「ピアノトリオ」を発表し、繊細かつ情熱的な音楽世界を披露しました。1954年にはオーケストラのための大作「詩的狂詩曲」を作曲し、管弦楽の豊かな響きの中に抒情性を表現しました。1959年には「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」を発表するなど、様々な編成の作品を手がけました。特に注目されるのは、世界的なチェロ奏者であるムスティスラフ・ロストロポーヴィチに献呈された「チェロ協奏曲」です。この作品は、献呈相手にふさわしい技巧的な要求と深い音楽性が融合した名作として知られています。また、ピアノ作品も多く残しており、1965年の「6枚の描写」や1981年の「ノクターン」などが挙げられます。さらに、彼はクラシック音楽の枠にとどまらず、ジャズ・アンサンブルのための交響曲（1981年）や、多数の優れた歌曲、そして映画音楽なども作曲しており、その活動範囲は多岐にわたります。

栄誉と国際的な評価

ババジャニアンの才能と功績は、生前から高く評価されていました。1950年には、ピアノと管弦楽のための「英雄的バラード」で権威あるスターリン賞を受賞し、同時に労働赤旗勲章も受章しました。これは、若くしてソビエト連邦における主要な作曲家の一人として認められたことを意味します。その後、1956年にはアルメニア共和国人民芸術家の称号を、そして1971年にはソビエト連邦の最高栄誉の一つであるソ連人民芸術家の称号を授与されました。彼の音楽は国内外で演奏され、国際的な評価も高まりました。特に、1974年6月には日本の東京で開催された第3回東京音楽祭において、ムスリム・マゴマエフが歌った楽曲『観覧車』（原題：Чёртово колесо、作詞：エフトゥシェンコ）により作曲賞を受賞しています。これは、彼のメロディメーカーとしての才能が国境を越えて認められた証と言えるでしょう。

作風と遺産

ババジャニアンの作品に一貫して流れているのは、故郷アルメニアへの深い愛情と、そこから生まれる豊かな民族音楽への傾倒です。アルメニア民謡の旋律やリズムを巧みに取り入れながらも、彼は近代的な音楽語法と融合させ、独自の個性的なスタイルを確立しました。その音楽は、抒情的でありながら力強く、情熱的でありながら洗練されています。彼は多様なジャンルで活躍し、多くの名曲を残しました。

晩年

晩年も創作意欲は衰えることなく、様々な作品を生み出し続けましたが、1983年 11月11日、活動の拠点の一つであったモスクワで永眠しました。

アルノ・ババジャニアンは、アルメニア音楽史において重要な位置を占める作曲家であり、その民族色豊かな作品は、今日でも世界中の聴衆に愛され続けています。

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