チェロ協奏曲

チェロ協奏曲

概要

チェロ協奏曲は、文字通りチェロを独奏楽器としてオーケストラと共演する協奏曲です。数ある協奏曲の形態の中でも、ピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲に匹敵するほど一般的で、多くの作品が音楽のレパートリーとして定着しています。この形式の萌芽は早くも18世紀初頭に確認されており、それ以降、チェロという楽器の進化や演奏技術の向上に伴い、多様な作品が生み出されてきました。

歴史

バロック期

18世紀初頭、イタリア中部、特にボローニャでは、弦楽器群と通奏低音を伴う協奏曲の中で、チェロが重要な独奏楽器として扱われ始めました。アントニオ・ヴィヴァルディはこの楽器のために約30曲もの独奏協奏曲を作曲しており、これらは当時としては高度な演奏技法を要求するものでした。これらの作品が近年、肩にかけて演奏するヴィオロンチェロ・ダ・スパッラのために書かれた可能性が指摘されることもありますが、音域や奏法、現存する資料からは、これを明確に裏付ける証拠は見つかっていません。ただし、ヴァイオリンのE線に相当する高音（E5）を求める楽曲があることから、そのような作品では5弦のチェロ（ダ・ガンバ型またはダ・スパッラ型）が用いられた可能性は推測されます。一方で、この時代には親指を用いた「サムポジション」奏法が既に確立していたため、4弦チェロでも演奏可能であったと考えられます。様々な証拠から判断すると、バロック期には足で挟んで演奏する、今日のチェロに近い縦型の楽器（ダ・ガンバ型）が主流であったようです。

18世紀を通じて、主にイタリアの作曲家たちによって数多くのチェロ協奏曲が書かれました。1730年代頃までの作品では、ヴィヴァルディの他、ジョヴァンニ・プラッティ、ニコラ・ポルポラ、レオナルド・レーオといった作曲家の作品がよく知られています。ジュゼッペ・タルティーニの協奏曲には、ヴィオラ・ダ・ガンバでもチェロでも演奏できるように書かれたものも存在します。

古典派

古典派の時代に入ると、バロック期に存在感を放った5弦チェロは次第にその姿を消しました。これは、ヴィオラとの音域による棲み分けや、サムポジションを含む4弦チェロの奏法が発達したことなどが要因と考えられます。また、バロック音楽に不可欠であった通奏低音の役割が薄れ、ヴァイオリン属の楽器であるチェロが、ヴィオール属のヴィオラ・ダ・ガンバに取って代わって低音楽器の主要な地位を占めることになりました。現在よく知られる、足で挟んで演奏する縦型のチェロが確立されたのはこの時代ですが、まだエンドピンは存在しませんでした。弦楽合奏における低音パートは、チェロとその1オクターブ下を演奏するコントラバスに集約されます。通奏低音が廃止されたことは、チェロが単なる低音を支える楽器としてではなく、豊かな旋律を奏でる独奏楽器としての可能性を大きく開くこととなりました。

古典派初期の重要な作品としては、カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの3曲のチェロ協奏曲が挙げられます。これらはフルート協奏曲からの編曲と考えられていますが、今日でも演奏機会があります。古典派のチェロ協奏曲で最も広く知られているのは、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンのハ長調とニ長調の2曲、そしてルイージ・ボッケリーニの多数の作品でしょう。ハイドン自身はチェロを演奏しませんでしたが、彼の身近に優秀なチェリスト（ジョゼフ・ヴァイグルやアントン・クラフトなど）がいたことで、彼の協奏曲は極めて技巧的でありながら、チェロの楽器特性に沿った優れた作品となっています。ハイドンの作品が現代でも頻繁に演奏されるのに対し、自身がチェロの名手であったボッケリーニの作品群は、その超絶技巧を反映した華やかな魅力を持つものの、楽譜の校訂の遅れや技術的な至難さから、ハイドンほど一般的に親しまれてはいません。古典派の多くの作曲家がチェロ協奏曲を手がけましたが、今日では忘れられている作品も少なくありません。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、チェロという楽器自体にあまり強い関心を持たなかったようです。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、チェロのヴィルトゥオーゾであるベルンハルト・ロンベルクに触発され、彼のために協奏曲の作曲を申し出ましたが、ロンベルクは自身の作品しか演奏会で取り上げないという方針から、この申し出を断ったと伝えられています。

ロマン派

ロマン派の時代には、ピアノが作曲家にとって最も身近な楽器となり、多くの作曲家がピアノ作品を中心に活躍しました。ヴァイオリンやチェロといった弦楽器の協奏曲は、アドリエン・セルヴェやヨーゼフ・ヨアヒム、パブロ・サラサーテといった、その楽器のヴィルトゥオーゾ自身が自作自演のために作曲することが一般的でした。特にチェロはヴァイオリンに比べて構造が複雑で、奏法も独特であるため、チェロの演奏経験がない作曲家にとっては、演奏不可能な楽句を書いてしまうリスクが高まります。このため、多くの作曲家はチェロ曲を作曲する際に、チェリストの専門的な助言を必要としました。こうした背景から、チェリスト以外の作曲家にとって、特に演奏技巧を見せ場とする協奏曲は、やや敬遠されがちなジャンルとなりました。ロマン派を代表するヴィルトゥオーゾたちが作曲したチェロ協奏曲や協奏的作品としては、アドリエン・セルヴェ（エンドピンの発明者としても知られます）、オーギュスト・フランコム、ゲオルク・ゴルターマン、アルフレード・ピアッティ、カール・ダヴィドフ、ダーヴィト・ポッパー、ユリウス・クレンゲルなどの作品が挙げられ、これらは現在でもチェロ学習者の重要な課題曲となっています。

一方、ピアニストである有名なロマン派作曲家による協奏曲としては、ロベルト・シューマンやカミーユ・サン＝サーンスの第1番などが広く知られています。ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」も厳密には協奏曲の形式とは異なりますが、チェロの重要なレパートリーとして頻繁に演奏されます。これらの作品は、ヴィルトゥオーゾ的な技巧誇示を前面に出すというよりは、楽器の歌謡性や表現力を重視した傾向がありますが、技術的にはかなりの難易度を持っています（シューマンの作品は、作曲家が弦楽器奏法に必ずしも通じていなかったがゆえに、意図せず技術的に困難になった例として有名です）。ロマン派のチェロ協奏曲の中で、今日最も高く評価され、演奏機会が多いのはアントニン・ドヴォルザークのロ短調作品でしょう。ヴィオラ奏者であったドヴォルザークは、チェロの特性を深く理解し、独奏楽器とオーケストラの対話を高い次元で実現しました。

近代

ロマン派の終末期から印象派を経て20世紀に入ると、チェリストたちの演奏技術が著しく向上し、これに伴ってチェロ独奏曲、特に協奏曲が再び活気を取り戻しました。この時期には、エドワード・エルガーやフレデリック・ディーリアス、アーノルド・バックス、ジェラルド・フィンジといったイギリスの作曲家による優れた作品が生まれました。また、作曲家の多くがロマン派のようなピアノ偏重から脱却し、弦楽器に対する理解を深めたことも、チェロ作品の増加に繋がりました。特に新古典派の作曲家はチェロのための協奏的作品を好んで作曲する傾向にあり、ダリウス・ミヨー（ヴァイオリニスト）、ボフスラフ・マルティヌー（ヴァイオリニスト）、パウル・ヒンデミット（ヴィオリスト）といった面々が複数曲を手がけています。ロシア系の作曲家では、セルゲイ・プロコフィエフ（交響的協奏曲）、ドミートリイ・ショスタコーヴィチ（第1番）、ミェチスワフ・ヴァインベルク、そしてイギリスのベンジャミン・ブリテン（チェロ交響曲）などの作品が重要です。これらの多くは、ピアノを背景とする作曲家によって、20世紀を代表する稀代のチェリストであるムスティスラフ・ロストロポーヴィチのために書かれた協奏的作品でした。ロストロポーヴィチの超絶的な技術を想定することで、作曲家は従来のチェロの楽器書法にとらわれることなく、新しい表現を追求することが可能になったのです。一方で、作曲家と演奏家が分業する傾向が進み、ヴィルトゥオーゾ自身が自らのために協奏曲を作曲するというスタイルは相対的に減少しましたが、それでもフーゴー・ベッカー、エンリコ・マイナルディ、ガスパール・カサド、ポール・トルトゥリエといった名手たちは、独自の作品を生み出しています。

現代

20世紀に入ると、チェロはその豊かな音色と幅広い表現力から、現代音楽においても非常に重要な楽器となりました。ジークフリート・パルム、フランチェス・マリー・ウィッティ、ローハン・デ・サラーム、ミヒャエル・バッハ、堤剛といった現代音楽に積極的なチェリストたちのために、多くの作曲家が傑作となる協奏曲を書き下ろしています。特に、ユン・イサン（パルム献呈）、ジョナサン・ハーヴェイ（ウィッティ献呈）、ベルント・アロイス・ツィンマーマン（パルム献呈）、ジェルジ・リゲティ（パルム献呈）、ジョン・ケージ（バッハ献呈）といった作曲家たちの作品は、現代チェロ協奏曲の重要な位置を占めています。また、演奏家自身が作曲を行うという伝統も完全に失われたわけではなく、ジョヴァンニ・ソッリマのように現代的な協奏的作品を数多く発表しているチェリストも存在します。

主な作曲家と作品

チェロ協奏曲の歴史は、時代ごとの作曲家たちがその音楽的語法とチェロという楽器の可能性を探求してきた歩みでもあります。バロック期のヴィヴァルディから、古典派のハイドン、ボッケリーニ、ロマン派のシューマン、サン＝サーンス、そして極めつけはドヴォルザークの傑作、近代のエルガーやショスタコーヴィチ、そして現代の尹伊桑やリゲティに至るまで、各時代を代表する作曲家たちがチェロ協奏曲のレパートリーを豊かにしてきました。これらの作品は、単なる技巧の披露にとどまらず、楽器の深い表現力、歌謡性、そしてオーケストラとの密接な対話を通じて、聴衆に多様な音楽体験を提供しています。協奏的作品の分野でも、チャイコフスキーの「ロココ変奏曲」やR.シュトラウスの「ドン・キホーテ」、エルネスト・ブロッホの「シェロモ」など、チェロの魅力が存分に発揮された名曲が多く存在します。これらの作品は、チェロという楽器の持つ独特な音色と表現の幅広さを証明しており、今後も新たな作品が生まれ続けることでしょう。

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