アルバート・ピンカム・ライダー

アルバート・ピンカム・ライダー（Albert Pinkham Ryder、1847年3月19日 - 1917年3月28日）は、アメリカ合衆国の画家であり、その生涯は独特の芸術観と創作活動に彩られています。彼の作品は、寓意的で象徴的なテーマを扱い、見る者を幻想的な世界へと誘います。

生涯

ライダーは、マサチューセッツ州の海沿いの町、ニューベッドフォードで生まれました。1867年に家族と共にニューヨークへ移住し、兄が経営するレストランが成功を収めたことが、彼の生活を支えました。1870年から1875年まで、ニューヨークのナショナル・アカデミー・オブ・デザインで美術を学び、そこで生涯の友人となるジュリアン・オールデン・ウィアーと出会いました。1878年には、伝統的なアメリカの美術界に反発する形で設立された米国芸術家協会に、オーガストス・セント＝ゴーデンズやロバート・スウェイン・ギフォードらと参加し、新しい芸術の流れを築こうとしました。

初期の作品では、1878年から10年ほど、家畜や木々、建物などを鮮やかな色彩で描いた風景画を制作しました。しかし、1887年以降、ライダーの作風は大きく変化し、シェイクスピア、バイロン、エドガー・アラン・ポー、ワーグナーといった文学や音楽からインスピレーションを得た象徴的な作品へと移行しました。これらの作品では、曇り空の中の弱い太陽光や月に照らされた風景が描かれ、独特の神秘的な雰囲気を醸し出しています。彼は、遅乾性の絵の具の上に速乾性の絵の具を重ねるという特殊な技法を用い、意図的に不安定な状態を作り出しました。この技法は、作品の乾燥が進むにつれて、変化をもたらすこととなりました。

1900年以降、父親の死も重なり、ライダーはますます非社交的になり、自身の周囲への関心を失っていきました。彼の作品の質や創造性は徐々に低下しましたが、同時に初期の作品が評価され、芸術家としての名声は高まりました。著名なコレクターが彼の作品を収集し、1913年の国際展覧会であるアーモリーショーを含む多くの展覧会に招待されましたが、彼は既に創作への意欲を失っていました。1915年頃から体調を崩し、1917年に友人であるオールデン・ウィアーの家で静かに息を引き取りました。

作風と影響

ライダーの作品は、アメリカのモダンアートの先駆として位置づけられ、ジャクソン・ポロックやマースデン・ハートレーといった後の芸術家たちに大きな影響を与えました。彼の独特な寓意的な表現や、文学や音楽から着想を得た象徴的な作風は、後の世代の芸術家たちに新たな表現の可能性を示しました。

彼の作品は、ブルックリン美術館やメトロポリタン美術館など、多くの美術館に収蔵されており、現在でもその芸術的価値は高く評価されています。

主な作品

「死の馬」（The Dead Horse）
「月に照らされた海」（Moonlit Cove）
「ジョアン・オブ・アーク」（Joan of Arc）
「テンプテーション」（The Temptation）
「幽霊船」（The Flying Dutchman）
「アッシリア王」（The Assyrian King）
「砂漠」（The Desert）
「ロバと少年」（Donkey and Boy）
「聖なる騎士」（The Holy Knight）
「星空」（Constellation）

参考文献

* William Innes Homer, Lloyd Goodrich: "Albert Pinkham Ryder: Painter of Dream's", Library of American Art, Mishawaka, 1989. ISBN 9780810915992

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